抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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愛は呪い「テッド・バンディ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は連続殺人鬼テッド・バンディをザック・エフロンが演じた「テッド・バンディ」の感想。ユーロスペースの試写会では、「パラサイト」に続いて監督登壇の試写会となりました。どうやら、日本以外では劇場未公開でNetflix公開らしいのでそりゃ監督も来日するわな、と納得。でも有益なお話をいっぱい聞けましたよ。

え?スターウォーズ?知らねぇよ、見てねぇもん!(祭りに参加できず拗ねる人)

Extremely Wicked, Shockingly Evil and Vile

WATACHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有り)

 1.殺人シーンのない殺人鬼

 今回の映画の最も大きな特徴は、殺人鬼を題材にした映画でありながら殺人シーンが最終盤までちっとも出てこないこと。よって多分全年齢対象でも行けるでしょう。あ、性行為とかあるからそっちで引っかかるか。

 というのも、この作品はあくまで原作がテッド・バンティと暮らしながらも殺されなかった女性、エリザベスのものであり、彼女の視点を中心に描かれたものだから。

 冒頭、オレンジの囚人服を着たテッドとの面会から始まるように、テッドが明らかに有罪宣告を受けたことをしっかりと描写しています。そして2人の会話から回想に移り、気づけば時間軸が出会った頃からゆっくりと冒頭の面会に向けて進みだす、という感じ。

 そのせいで、前半はテッド・バンディとエリザベスがいかに愛し合っているのか。シングルマザーでもあったエリザベスだが、その娘モリーに対してもテッド・バンディがいかに優しいのか、ということが語られ、こんなにキスする映画って恋愛映画でも少ないんじゃね、ってぐらいラブラブのイチャイチャを見せつけられます。特に好きなのは、おそらくこの間にテッドが起こしたであろう事件の報道の音声が、家族写真やホームビデオのように彼らが過ごしている映像に重なっているところ。まさに人間の持つ善と悪の両側面がしっかりと描写されている瞬間だったと思います。

 そしてこの後、テッドが信号違反をきっかけに逮捕、その後いくつもの容疑を掛けられては脱走、脱獄で最終的にはフロリダで更に捕まる。まあこの辺になるとエリザベス視点だけで進むのは無理なので、テッド視点との並行線で進むことになるわけです。

2.愛は最大の呪い

 この映画の特徴として、殺人シーンが無いことを挙げましたけど、その結果、観客としては連続殺人鬼の映画だと知っているし、冒頭で収監されているのを見ているのにテッドは本当は無罪なのではないか、と思わせてしまう。

 劇中で効果的に使われているのがアンリ・シャリエールの名作『パピヨン』。無実の罪で収監されたパピヨンが何度も脱獄を試みながら、ついに脱出する過程を描いた傑作ですね。これがまたテッドが無実なのかもしれない、という希望を我々に持たせるものにもなります。一方で、特に今年日本で公開されたリメイク版の『パピヨン』であったような当事者であるが故の欺瞞、不信を表現しているとも考えられます。

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 本当に無実なのか、怪しくなってくるのがフロリダのでの裁判シーン。見方によっては、『それでもボクはやってない』的な無実だからこそ徹底的に戦っているように見えますが、自分自身が弁護人となって弁護する様子はティム・バートン監督の『ビッグ・アイズ』のクリストフ・ヴァルツとか『否定と肯定』のティモシー・スポールなんかを思い出す感じ。『ビッグ・アイズ』見てるとどうしてもこのパターンの人って胡散臭く見えちゃいますよね。

 んで、このフロリダで有罪判決を受けて、うわ、怖かったね、はこの映画の主題じゃない訳です。そう、あくまで主体はエリザベスの方。ということで、再び冒頭の面会場面になり、死刑執行直前のテッドとの会話に。ここでエリザベスはかつて警察官から渡されていた封筒を突き付け、テッドからの自白を引き出すことになるわけです。

 エリザベスはこの瞬間まで、自分が通報したせいで無実のテッドを死に追い込むかもしれない。そういう葛藤を抱えていました。彼のことを忘れられない、彼と過ごした時間は良き恋人で、良き父であった。もしかしたらとんでもない罪を犯したのかもしれない。彼からは電話がかかり続けてくるし、一度会いに行ったらやはりそこにいるのは凶悪犯ではなくかつての彼。脱獄して自分のところに帰ってくることもなく、別の女性と獄中結婚をしているのを目撃してやっと踏ん切りがつく、そんなレベル。信頼とは違う、愛で結ばれたもはや呪いといっていいレベル。誰かを愛するということは、とっても重い呪いでもあるんだなぁ、と恋愛とすっかり疎遠になりつつある私なんかは他人行儀に見ているわけです。たまたまエリザベスの場合は、一緒に受け止めて、連鎖を断ち切ってくれる新たな恋人と娘がいたから良かったですが、そうじゃなかったらと思うと。

 そういう意味では、テッドと獄中結婚して、子どもまで設けたキャロルも可哀想ではあります。テッドが心の奥底ではエリザベスをまだ追っていることに気付いていながら、それでも彼を愛してしまった。こっちの論点でも愛は呪いです。余談ですが、キャロルを演じたカヤ・スコーデラリオはこの前ワニから逃げてた子です。ワニには勝ったが、愛には負けたか…(違う)。

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