抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

鍛えて「愛はステロイド」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はなんかすごい邦題になったA24最新作。既に主演2人と監督がクィア性を押し出した動画を出していたりする作品です。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有)

 勿論『テルマandルイーズ』を思い出させるようなガールズフッドな話ではあるのだが、どうにも様相がおかしい。冒頭のA24のロゴが白文字ではなく赤文字。おどろおどろしい雰囲気かと思うと、綺麗な夜景。大体ロクなことにならなそうな冒頭である。そんな中描かれるのは、クリステン・スチュワート演じるルーが営むジムに、バッキバキに鍛えてベガスでのボディビル大会に向かってるケイティ・オブライエン演じるジャッキーがやってきて、2人が恋に落ち、そしてどんどん転がっていくところ。『テルマ&ルイーズ』に限らず、今年見たやつだとテレンス・マリックの『バッドランズ』もそうだったが、なんというか深い考えもなく流れのままで人を殺してしまって慌てふためいてる感じが面白いのだが、本作の場合はジャッキーの加害のきっかけがルーのためであり、ルーもまた姉のベサニーが夫JJのDVで意識不明で搬送されたことを受けてだし、どこか人を想う気持ちで溢れている。どうしようもない人たちの転落というよりも、今そこで起きかねない話に対して、やれる力のあるパワータイプの人間が我慢できねえ、という話であるのが痛快さもあるし、そこをただのジャンルムービーにとどまらないところを見せている。

 まあ、言ってしまえば、アン・リー版のハルクみたいなもんだと理解している。うん。キレると暴走。あ、でもキレて殴るのは最初のジムの外で出会う場面でもそうだね。だからステロイドや喫煙をはじめとした肉体に注入する行為だけが原因じゃない。父親の支配、そこから解放されるために、という話で怒るとスーパーパワーを得るハルクに対して、本作は現実ベースでいくんだね、と思っていたら普通にでっかくなる。赤井さん、どうしてそんなに(以下略)である。トンデモ映画の皮まで被ってくれるのか。でも、そういう普遍的な話ではあるのにクィアな要素がキャラたちにあり、そしてそれが父親との対立とは何の関係もないのが良い。

 そしてまあ何と言っても、演者である。肉体があまりにも説得力がある。ドキュメンタリーすぎる。ケイティ・オブライエン、いくら肉体をCGとかでどうにでもできるとはいえそうじゃないでしょう、と思える肉体、ついでに『ミッション:インポッシブル:ファイナル:レコニング』でそもそも、潜水艦にすんごい鍛えてる人おるぞ!?とびっくりしたが故の刷り込み完了でもある。アントマン3にも出てたらしいんだが、どれっすか。肉体がドキュメンタリー性を伴っているように感じられることは、TBSラジオ「アフター6ジャンクション」でもTBSアナウンサー山本匠晃さんが映画における食事シーンはドキュメンタリーであるとして大好物であることと似ているように思える。即ち、本作においては筋トレもタバコもステロイドも食事も、すごくドキュメンタリー性の高い行為が多くなされており、そしてその多くが自身の肉体に対して直接作用したり、変容させるものである。だからこそ、直接摂取できない愛というものの力や怒りのパワーで肉体が変質し、巨大化するマジックが起こりうるのだ。

 親からの解放の話のゴールは、頑張らないと親に似る、がいつも私の口癖のようになっているはずだ。ルーにもその危険な兆候はある。だから、ここからルーは頑張るターン。でも、だからそのためにジャッキーがいてくれるはずだし、ジャッキーに「私の言うとおりにして」と人を操る立場から最後にデイジーを自分の手でぶっ殺して対等な立場に降りた。まさに卵の白身だけよこせと言ったのとは違う、白身と黄身と揃って卵なんだよ、みたいな?EDDIEさんごめんなさい、卵映画読み解きをパクりました。