抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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絶望よりも重い現代病「死刑にいたる病」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は私が最も大好きな日本人監督、白石和彌の最新作です。個人的にはここ2本はホームランとはいっておらず、打率が下がってきた印象ですが、本作は如何に。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有)

1.シリアルキラー映画、その系譜

 本作は、阿部サダヲ演じる連続殺人鬼のパン屋さん、榛村大和から主人公の雅也に手紙が届くことで始まる。曰く、24人を殺害し、9件立件されたが、その最後の事件は自分の手によるものではない。これは冤罪だ。だから調べてくれ、と。殺人鬼からの手紙を受けて、主人公が独自に調査を始める、という点で言えば白石和彌監督は『凶悪』を既に作っており、差別化が難しい導入。

 『凶悪』では、事件の全容的には中盤から終盤に畳みかけていく感じはありましたが、本作は榛村の裁判記録を通して序盤のうちから全部そこは見せてしまう。っていうか、ここでグロめなところ、身体的にきついところをだしておいて、シンプル拷問できつくなる。『凶悪』の感じとはまたちょっと違う嫌さだ。

 また、原作小説がテッド・バンディをモデルにしている、ってことでその手の連続殺人鬼映画とどうしても関連は感じるし、あとまあ洗脳系っていう意味では園子温作品にも似ているところはあるし、あと、面会室で雅也がどんどんと榛村を取り込み、同一化していくのがガラスに映って、物理的にも同一化していくような手法は是枝監督の『三度目の殺人』において、福山雅治×役所広司で見た構図でもありましたね。本当に手を握ってしまうっていうのはフレッシュでしたが。

2.二転三転その先に

 話としては、殺人の話を調べていくうちに、雅也が自分の本当の父親が榛村ではないか、と思い始めて同一視していく、という物語と、岩田さんが演じる金山が、まあ明らかなミスリード的に存在しているので、彼が犯人なのか。あと、明らかに大学でスカッシュしたりしてるシーンが浮いているので、そこがどう絡むか。

 そういった意味では、付き合うことになった彼女が既に榛村の支配下にあった、っていうのもすっごいサプライズじゃないな、と思いましたし、誰でも良かったんだ、誰かが榛村の指示の下で調べまわることで、支配の力を継続したかったんだ、っていう動機っぽい感じのニュアンスもまあサイコパスとしては別にすっごく珍しい感じではないというか。あ、彼女役を演じられた宮崎優さん、彼女はとても良かったと思いました。最後にしっかり狂気を感じたし、え、じゃあ結ばれるあっこも実は?と思わせる感じはしっかりありました。それが露呈するセリフは「決められない」の方がぞわっとするかなぁ、というのは個人的な思いでしたが(ちなみに軽めに原作のリサーチをしたところ、どうも弁護士も既に懐柔されている感じでした。映画でもそのニュアンスがあったほうがいいような気はしました。警官を懐柔できているのに、弁護士がまだ敵意があるのはちょっと不思議に思える)。

 とまあ、割と素直に喜べない、というか、既視感のあるものが多かったり、サプライズが少ないように感じる、っていうのは、かえすがえすタイトルのせいなんですよね。少しでもミステリを読んだ人間なら、誰もが想像する我孫子武丸『殺戮にいたる病』というものがありまして。いや、元ネタは同じでキルケゴールの『死に至る病』だし、キルケゴールが絶望を論じたのに対して、本作は希望・認めてあげることが死に至らしめるという恐ろしさを描いていたんです、それは分かっています。

 ただ、『殺戮にいたる病』って名著すぎて。しかもこれが倒叙ものとして非常に著名で、とにかく最後に大サプライズが待っているんです。『葉桜の季節に君を想うということ』級、とだけ言っておきましょうか。なので、そのレベルのサプライズを期待してしまって、全部想像の範疇、想定できる最悪の中で収まっちゃったな、っていう。丁寧に伏線張っておいてくれてるってことなんですけどね。

 結局は、うーん、サプライズ重視の倒叙型ではなくて、真梨幸子とか、沼田まほかるとか、桐野夏生とか、湊かなえとか、あと調子いい時の誉田哲也みたいな、映画でいえば『オールドボーイ』みたいな、そういうイヤミスなんですけど、それをなんかすっごい裏がありそうに進めるから、イヤミスのいいとこが削がれちゃったかな、って感じです。

 …もしかして、私、胸糞とかイヤミスの耐性つきすぎかも?