抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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令和に居場所はあるか「鬼平犯科帳 血闘」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は試写会で鑑賞したこちらの作品。血の闘いに相応しい殺陣でした。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレあり)

1.時代劇作ろう

 かつてから私は言い続けてきたことをおさらいしましょう。時代劇ガンガン作れ、です。TBSラジオなどで春日太一さんからかつての時代劇の隆盛からはどうしても美術や衣装など技術スタッフの維持が難しくなっていることなどを聴いてから、いやさ折角の技術が廃れていくのは残念だしせめて口伝でアニメーションに移植してでも毎年忠臣蔵はやってくださいよ、みたいなことを延々言い続けており、その上で高品質だった『鬼平』の続きをやってとも懇願しているのでございます。そんな中で、『鬼平』にも絡んだ時代劇専門チャンネルがバックアップしての鬼平犯科帳映画化ということで嬉しい限り。同時に発表された『仕掛人藤枝梅安』を身に行けなかったのは痛恨の極みではありましたが、そもそも中学生の頃に『鬼平犯科帳』を読んでいるので仕掛人鬼平では思い入れが違うのです。お許しください。

 っていう前提を踏まえてでございます。今回の『鬼平』は松本幸四郎松たか子の親では無く兄弟の方。襲名しているのに記憶のアップデートができていない話は5月に見るかもしれないブログで触れましたが、彼の若かりし頃の役を息子の市川染五郎が演じる親子共演。AppleTV+でやっていた『モナーク』でのカート・ラッセル&ワイアット・ラッセル親子と同じ手法。親子共演がメインだ!と思ったらキーパーソンとなる泥棒が柄本明で、鬼平の部下に柄本時生がいてこっちもしれっと親子共演してた。それと、長谷川平蔵と言ったら二代目中村吉右衛門の印象ですが、八代目の松本幸四郎もしていたとのこと。今作が十代目の松本幸四郎。おじいちゃんと同じ役柄を演じ、その若き日を息子が演じる。なんかすごい歌舞伎&松竹パワーを感じる。しっかり貫禄もありつつ、人情を重んじているし、若い頃の血気盛んなのも微妙に感じるいい長谷川平蔵だったと思います。まあこの長谷川平蔵がアリかナシかは映像化を見てきている先輩方に任せるしかない、というのも事実ですが。

 タイトルとなる血闘はアニメ版でも取り上げられていたし、多分読んでいる密偵(と書いていぬと読む)のおまさの話。アニメ版では朴璐美さんが演じていた役ですが、中村ゆりさんが演じます。『波よ、聞いてくれ』のドラマ版でもいい役でしたが今回も非常においしい酷い目に遭う役。全体として、北村有起哉との決戦の度に彼を取り逃しては、という流れのために悪役が小物っぽく見えるものの、ラストの長谷川平蔵ひとり大立ち回りの迫力も十分。話がダレないように中盤に大きな見せ場を持ってきておいてちょっと回想メインに後半をするのも映画としてのドライヴが足りない感じはしますが納得はする感じ。そもそも、OPの感じや、最初の討ち入りで殺陣に変なエフェクトつけててヤバいかもしれん、完全テレビドラマ仕様のが始まってしまった…という恐れからしたら全然許容範囲というもの。確かに、柄本明が屋根の上を走ってコソ泥するとか、火野正平が馬に乗る松本幸四郎を走って追いかけて息切れするとか、よく考えなくてもギャグになってしまうようなシーンもありましたがその辺はご愛嬌というか、時代劇というファンタジーを1個嚙ましているので飲み込みやすいというか。うん、それでも柄本明が泥棒仕草しながら屋根の上走ったり、ほっかむりでThis is泥棒!っていう滑降しているのは笑ってしまうか、うん。

 鬼平犯科帳というか、時代劇のあるジャンルってめっちゃダークヒーローに近い作品群がある訳ですね。アメリカが銃社会なら、こっちは刀社会で、道を歩いていたら突然殺される可能性が現代日本よりも全然高いし、アクションとして見栄えのある殺陣を繰り出せばヒーロー側も当然殺人者になるし、それを咎める法も倫理もない。ましてや、鬼平犯科帳は元盗賊たちを密偵として飼い慣らしている訳で、限りなくグレーに近いことを権力側が行っている。それでも現代にヒーローとして蘇る価値があるのか?という問いは持っておくべきで、無批判にかっこいいぞー!!っていうのはちょっと難しい存在で。今回の映画ではそこにも自覚的で、鬼平犯科帳がもともと持っている盗みはまだしも殺す前提の盗みはダメっていう倫理観と、長谷川平蔵が火付盗賊改に就任してから却って犯罪が激化していないか?という問いやお前も人殺しじゃないか?という問いを長谷川平蔵本人にぶつけている。そこで鬼平さんの方でも彼なりの答えを持ち合わせていてそれをお出ししてくれる。後はそれを好むか好まざるかはこっちの問題で、少なくともそこを作り手は意識していることが分かるのは個人的には好印象です。

 ってことで結論!もっと作ろう時代劇!