抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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何故綾野剛はニューバランスを履くのか「ドクター・デスの遺産 BLACK FILE」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は見る前からTLで酷評が凄かった邦画。うん、原作者の中山七里先生の作品は「さよならドビュッシー」も映画は微妙だったので映像化向きじゃないのかも…?なんか見ていてただの刑事ドラマを見せられている気がしましたね。

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WATCHA3.0点

Filmarks2.9点

(以下ネタバレ有)

1.最後まで湧かぬバディ感

 冒頭で刑事ドラマかな?と思ったのは、まあとにかく警察関連の描写の曖昧さがひどいな、と思って。最近の映画でここまでのってありますかね。

 タイトルにもしたんですけど、まず綾野剛ニューバランスを履いている。なんかそれだけですっごい違和感があったんですけど、走りやすい運動靴のくせに、ホームレスの柄本明に引き離され、最初の通報してきた少年にも追いつけない。いやお前何のために運動靴履いてるんや、と。この後も延々酷評しますけどね、多分このニューバランスがすべてだと思ってます。細部に神は宿りますよ。

 んで、この段階でツッコミたいのをぐっとこらえて見ていても、綾野剛演じる犬養は警部補だって分かるんですけど、北川景子演じる高千穂は階級が一向に出て来ない。多分犬養より下なんでしょうけど、そこの関係性がはっきりしないし、終盤は犬養の家庭の話になっていくので、ちっともバディ感が形成されない。うーん、これではイマイチ盛り上がらない。

 あと、捜査過程ですよね。どう考えてもおかしい木村佳乃への事情聴取での犬養身の上語りとかも辟易するんですが、柄本さんの似顔絵作って、そっからのローラーですよ。柄本明の顔が特徴ない訳ないだろ!!というツッコミはこれまたぐっと我慢したとしても、似顔絵片手に交番の警官たちが街に繰り出してただ闇雲に探す、ってそれいつの時代の話なんでしょう。田中一郎という偽名の段階ではその名前の医師を当たっておいて、顔が出たのに医師に当たらない頓珍漢な捜査はお笑い種としか言いようがありません。

 最後に、なんか良く分からないオープニング。切り裂きジャックがどうたらみたいな新聞記事とか見えましたし、なんかシリーズ化したいのが見え見えというか、もう火曜サスペンス劇場でシリーズになっていたかのような雰囲気すら漂うんですよね、悪い意味で。

2.ウミガメのスープ初級編

 さて、本作はミステリ的に言えば一応フーダニットになるでしょうか。

 観客に対しては、まず柄本明木村佳乃をキャスト段階で伏せておき、映画が始まるとすぐに柄本さんの声、そしてまたそこまで時間を空けずに顔面も晒してしまい、彼を真犯人だと思わせる。その上で、一度聴取されている木村佳乃の方が主犯でした、という捻りがあります。

 ただ、これ正直捻りになってないな、というかミステリとしてうーん、高レベルではないですね。そもそも当初から安楽死事件の現場に医師と看護師が向かっており、何故犯罪行為を2人組でやっているのかの疑問が出ますし、取り調べの際の木村佳乃の言葉で「最期は」なんてワードが飛び出しますからコイツの供述は信用できないのが確定。逮捕された柄本明がホームレスで犯行に使用された塩化カリウムの入手経路が不明すぎることで、元看護士の木村佳乃の方で更に確定だといえる、とすんなり謎が解けるのでどんでん返し、って感じじゃないですね。

 一応、ドクターと名がつく段階でドクター・デスは男性ではないか、という固定概念・先入観を利用したある種の叙述トリックなんですが、その割に注射のシーンは手元しか写さず、曖昧にしてあるのでやっぱりヒントだしすぎかしら、と。っていうか医者が女性っていうの、ウミガメのスープの基本ですよね。職業における性分布率の差を使ったトラックではありますが、こういうの、使えなくなるぐらい男女同権がすすむことを願います。

3.安楽死を扱うなら

 さて、この映画の話をするうえでもう一個外せないのが安楽死の問題。奇しくも2020年は、安楽死殺人で逮捕者が出た年でもあり、未だ答えの出ないこの問題に対してどの程度真摯に向き合っていたかは、この映画の評価を大きく左右します。

 そういった点では、本作は非常に不満です。

 まず単純に、ドクター・デスの存在が、そうした自己決定権の下に行われて、システムや思想を揺るがすタイプのものかと思いきや、最後は自分で犬養の娘を唆して安楽死を依頼させるマッチポンプを行い、更には犬養に直接私怨で手を下そうとする、単なるサイコパスチックな扱いにしてしまったことで安楽死に関する倫理が完全に遠のいてしまったこと。

 それから、終盤は塩化カリウムが注入されるまでのタイムサスペンスにしかなっておらず、これまた安楽死とかどうでもいい、っていうか、安楽死でなくてもいい存在になってしまったこと。

 最後に、警察や犬養が徹底的に反ドクター・デスを貫いており、思想的に揺れる人物がいないことで、単なる綾野剛かっこいいで終わってしまうこと。まあ娘狙われたらしょうがないけどさ。ちらっとWikiを読んだら、むしろ原作では犬養は必ずしも安楽死の誘惑を断ち切れる自信はないようだし、娘をおとり捜査としてドクター・デスに差し出しているようなので、そういう倫理も問われるいい展開にできてたようなんですけどね。うん、これ多分脚色が大失敗してるんだろうな…。

 安楽死について、もっと真剣に取り組んで欲しかった、というのは正直なところですが、そうやって扱いづらくしてしまうことで議論を遠ざけるようなことになるのも本意ではないところ。難しいところです。

 

 あと、木村佳乃柄本明の演技をもっと抑制させて!!あの2人暴れまくってたよ!!トーンが違いすぎる!!これは監督が悪いよ!