抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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歴史と未来「わたしたちの国立西洋美術館~奇跡のコレクションの舞台裏~」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はドキュメンタリー映画フレデリック・ワイズマンの『ニューヨーク公共図書館』みたいなのを作りたかったらしいですが、ふつーに字幕がいっぱいでます。

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WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

(以下ネタバレ有)

 

1.美術館の役割

 さて、今回のドキュメンタリーの舞台は国立西洋美術館。言ってみればお仕事モノのドキュメンタリーで、2020年~2022年の国立西洋美術館の改装の時期に彼らの知られざる仕事ぶりに密着したものになっています。ここの時期に密着するっていうのは結構慧眼というか、いや許可されたのがこの時期だっただけの気もしますよ。するんですけど、ともすれば美術館の仕事って、展覧会を開いてみんなに美術品を見せることだと思われている気がするので、それだけじゃないんだよ!っていう啓蒙にもなる。

 ということで、独立行政法人国立美術館法を少し参照して見ましょう。その第三条で国立美術館の目的はこう定められています

独立行政法人国立美術館(以下「国立美術館」という。)は、美術館を設置して、美術(映画を含む。以下同じ。)に関する作品その他の資料を収集し、保管して公衆の観覧に供するとともに、これに関連する調査及び研究並びに教育及び普及の事業等を行うことにより、芸術その他の文化の振興を図ることを目的とする。

 まあ大事なのは、資料の収集、保管、調査研究、普及が仕事であるってことです。つまり、見せるのが仕事なのではなく、単純にアーカイブするために集め、その保全に努め、そしてそれを一般に公開しながら文化振興を図る国民のための施設であるということ。図書館とか博物館とかと合わせて社会教育施設なんて言ったりしますね。

 という前置きをしておきまして、閉館中のお仕事に密着するということで、今回の映画は美術館のリニューアルの模様と同時並行しながら、保全とか移動、来歴の調査研究、修復といったところに着目して見せてくれます。知られざる裏側を色々見れる、というのもシンプルに好奇心を刺激されて面白いですし、当たり前のことだけど気付かなかったことが沢山描かれます。まあ例えば、美術品の購入をするっていうことだとか、来歴が分からない美術品は略奪の可能性とかがある、展覧会の開催は殆ど全額新聞社やテレビ局が負担するビジネスモデルになっていることなどなど。

 そして、ここで登場する美術品のすべてが当然国立美術館で収蔵されるべき作品であることから、その移動のすべての瞬間がサスペンスフルなんですよね。ぐるぐる巻きにしても、クレーンで吊るされる彫刻はダメージが気になるし、絵画をけっこうそのまま運んでて落とすリスクとかありそうでひやひやする。ちゃんと専門の輸送業者がいるんですよ?これまでも実績がある方々が責任をもって運搬しているし、ちゃんと学芸員も立ち会っている。でも怖い。ただのお仕事密着では得られない緊張感がそこにありました。

2.文化財とは

 でですよ、こんなに凄い重要な仕事をしているのが、劇中の字幕だと21人っていうのがもう笑止ですよね。国立美術館独立行政法人化されたことで独自採算を取れなくてはいけなくなり、新自由主義的なコストカットを余儀なくされて、予算もどんどん目減りしているようで。こと、この美術館においては日本のどころではなく、世界の宝を扱っているにも関わらずその人材が20人ってギャグ以外の何物でもないと思うんですよ。え、じゃあ地方の博物館とか1人2人で回せって言ってます?いやもしかしたら本当にその人数で回しているのかもしれませんが。

 大阪府が2億円相当の彫刻を地下駐車場に放置していた、っていうふざけ倒した事例(美術品を温度管理無しで放置するとかありえない)に、東京国立博物館が電気代の値上げに耐えられないが追加予算は降りない、みたいな国の文化財に対する姿勢ははっきり残念としか言いようがありません。マジで。これまで一体どれだけの人が、そのもの自体の重要性を判断するのは後世の人間だ、ときちんと保存してきたから文化財となっている訳で、現在をサボればもうその先は無いんですよ。漫画のネームや原画が展覧会で展示されるようになるなんて誰も思っていなかった訳ですよ。今必要かどうかだけで、コストカットの対象に現在の人間がするなんていうのは烏滸がましいにも程がある。なんだったら、人類文明が滅んだあとにも遺っていくのが文化財なんですよ。人間の営みを記録している豊かさの証なんですよ。そんなもの、自由主義の経済の範疇でやるんじゃなくて、公共財として赤字でやり続けるものですよ。マジで!もっと!アーカイブに!金をだせ!!

 

 とまあブチギレてみたんですけどね。実は国立西洋美術館って足を運んだことがないんですよね。ル・コルビュジェによる建築で世界遺産登録されたこともあって、行きたいなぁとは思っていたんですけど、上野に行くとついついトーハクの方に足が向かってしまって。やっぱ西洋美術より日本美術の方が好きなんですよ。折角なのでこれを機会に行ってみようと思います。

 最後に!愛聴してるTBSラジオ「アフター6ジャンクション」で東京国立博物館で国宝をどのように保管しているのか、という特集があったので貼っておきますね!

特集:国宝ってどうやって保管してるの?特集!by松嶋雅人さん&和田浩さん - TBSラジオ「アフター6ジャンクション」 | Podcast on Spotify