抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

良い皮膚の日に公開です「皮膚を売った男」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は、昨年の東京国際映画祭でも名前を見かけたチュニジア映画の感想です。ゴールデンカムイっぽいタイトルだな、と思ったら案外遠からず。

The Man Who Sold His Skin [DVD]

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

1.人とモノを扱う現代アートへの皮肉

 ヤヤ・マヘイニが好演をみせた主人公サム・アリは、冒頭でアビールにプロポーズ。でもそこで盛り上がって発した言葉が原因で逮捕。不当逮捕として国外に逃れることになり、シリア国内に残ったアビールは、外交官のジアッドと結婚してベルギーにこちらも逃げる形に。レバノンとベルギーで引き裂かれた恋ですが、難民となったサムは自由にベルギーに行くことはできない。そこでそれを解決する方法が、自身の背中に現代アーティストにタトゥーを入れてもらい、美術品として生きることだった。

 いざ、その段階に入ったと思ったらですね、もうサムは途端に芸術品、即ちモノ扱い。ブルージュの美術館で他の絵画などと並んで展示され、子どもたちを引き連れた引率が、作品解説をする対象として扱われる。背中に吹き出物が出来れば、コレクションの管理法も分からないのか、と担当のソラヤが詰められ、即手術、療養中は「修復中のため展示できません」の表示。美術品としては当然ですが、保険会社の話なんかも出てきて、最終的にはオークションに出品されることに。

 それでも彼は、ベルギーに来て、アビールにも会えたし、生活は高級ホテル。彼は人権を引き換えに、一転、すべてを手にした男にも見える。それを際立たせるためにも、家族の残るシリアの様子をダメ押しのようにみせている。

 まあこの辺の話は、物事の文脈を読み替える現代アートの手法を皮肉ってる訳ですよね。そんなような話は、キャンディマンでも描かれていましたね。なかなか難しいところですが、本作においては、アビールに会いたい一心でサムも契約書にサインしている様子をしっかり見せているので、結構気まぐれで、最終的には人として扱われたがっているのが、ちょっと我儘にも見えちゃう。芸術家倫理、みたいなのが芸術家にあるのか分からないですけど、絶妙なラインですよねー。

 結局、最終的にはオークション会場で、完全に商品扱いする連中に偽装テロ、からのISISに処刑っていう映像まで流して、死後の皮膚が額縁に入れられて終わる、っていう皮肉展開からの、それは全部アーティストと共謀した嘘でした!みたいなバンクシーっぽい雰囲気のある終わり方でした。まあこの終わり方自体結構テーマを食い合ってる、っていうか、現代アートを皮肉る文脈だったのに、現代アートにモロに乗っかる手法で解決しているのは、大いに納得できないんですが、そういう方向に進みたがるサムの気持ちはとっても理解できるのがまためんどくさいところ。「外国からヨーロッパに来る人はみんな背中にタトゥーいれるの?」って聞いてきた子どもか、アビールの元恋人、というキャラクターとしてしっかり蔑みに来てくれたジアッドしか、あの時期は人として見てくれてない訳ですよね。

2.現実に勝てねぇ話

 とはいえですね、それだけだったら、美術を扱った作品だけあって豊かな色彩とかも含めて、いい作品だったな、で終わるんですけど、終了時の字幕にびっくりしてしまって。曰く、ヴィム・デルボア氏の作品『T.I.M』という作品に着想を得た、と。

 んで、軽く検索かけたらびっくりしたもんで、本当にティム・シュタイナーさんという人の背中にタトゥーを彫って作品とし、しっかり販売してその1/3をシュタイナーさんが受け取っている。また、死後はその皮膚は額縁に入れられるという。

 んで、この人にはベルギーではこうした制作が違法である、という判決を受けて中国に移住している、と。なんか現実の方が、ムムムとか思ったり、色々考えちゃうし、作品として、この現実を超えるアイデアは、タトゥーがビザの模様ってとこぐらいだな、と感じてしまいました…。