抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

団地映画の新境地「リンダはチキンがたべたい!」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はフランスアニメでアヌシー覇者。フランス語が眠くなる私がいったいどうなってしまうでしょう?

f:id:tea_rwB:20240426012120j:image

WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

 

 

 シンプルに面白かったし、良くできている!と言っていいだろう。まずは単純にアニメーションとして面白いというか。日本的なアニメとは塗り方が全く違っていて、カラーセンスなども含めてレミ・シャイエ的なセンスはあるが、レミ・シャイエは縁取りが完全に無いのに対してラフ画のように線が消えたりするぐらいの揺らぎを各キャラに与える感じ。それでいて、引いた絵の時は彼らの存在を示すようにはみ出して色を付けていったり、でも動きとしてはむしろ非常にレベルの高いものを見せてドタバタコメディを見せていく。レミ・シャイエをこそ引き合いに出したが、むしろ『マロナの幻想的な物語り』を見た時に感じた色彩感の方が近いかもしれない。ヨーロッパアニメを見た時に見られるここでしか得られることの無い養分、そんなようなものを感じました。流石アヌシーグランプリ。

 そういう導入だと、アートアニメなんだろうな、目が疲れちゃうな、とか思うかもしれないです。ところがどっこい、上映時間も短く、言ってしまえば下ネタの無いクレヨンしんちゃんみたいなもんで、チキンを食べたいけど売ってないから盗んで云々からのピタゴラスイッチのようにドタバタする内容なので、全員頭のねじがいっこ外れているし、あと何よりも行動原理がチキンを食べたい、もっと言うとチキンを食いたいけど鶏で手に入れてしまったから絞め方がわからん、レベルなのでわかりやすくていいテンポで進んで非常に見やすいですよね。

2.フランス団地映画

 で、この作品が凄いな、と思わされるのは読もうと思えばいくらでも読めるってところですよね。そもそも各キャラクターを単色で塗りつぶしているあたりから、キャラの年齢感や人種が不確かになっているのもそうですが、舞台は団地!フランス団地映画ウォッチャーの私が見逃せないポイント。これまで多くのフランス実写で舞台とされてきた団地は貧困層が住み、治安が悪いような、そういう印象を与え、いわばパリと対照的な存在のような扱われ方が多かったり、そこにフランスの閉塞感を見出したりしていました。本作もその雰囲気はあるのですが、しかしむしろ住民たちのコミュニケーションが取れている親しさと色彩設計による明るさで逆に暗いところを塗りつぶしているようにすら思える。

 終盤、パプリカをオーブンに入れて放置していたことが祟って団地は煙に包まれ、警察が突入するも噴水の攻撃を受けてしまうような描写が非常に印象的です。勿論、この作品を通して描かれたストライキと権力、という見方も出来ますが、リンダが学校で授業で聞いていたのはなんだったのか、と思うともっと歴史全体を俯瞰して描こうとしてた、あの団地はバスティーユで(そしてフランスという国家で)、チキンはルイ16世って訳です。チキンが結局焼かれ裂かれ食われ、は国王の首を切って民衆が街を歩いた、という教師の説明と符合し、そしてそれをフランスの未来を担う子どもたちに食わせている。じゃあ、冒頭でお母さんがリンダとの食卓、食っていた人数・場所・料理を考えるとこれからのフランスの目指したい姿って。いやー良くできているにも程がある。

 まじで、お父さんの涙として漏水が出てきたときにそこまで拾うか!と感動したラインでミュージカルになって多少盛り下がったんで年間ベスト!の空気が自分の中で薄れちゃったんですが、めっちゃいい映画なのはまちがいありません。