抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

文化祭は本番だって楽しい「Single8」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は振り返ってから気付いた、昨年好きな作品結構見ていた映画館、ユーロスペース案件。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

(以下ネタバレあり)

1.8mmの世界

 本作は原初の創作衝動から端を発する映画製作の物語。ここでノレるか、という非常に重要なパートだと事前には思っていたのですが、スターウォーズに衝撃を受けてあんなデカい宇宙船を撮りたい!と思って友人とそのシーンを撮るところからこの映画は始まります。完全なスターウォーズオマージュ(文字が奥にすすんでいくやつ)で始まりますが、如何せん私はスターウォーズはまったく見ていない人間。というか、そもそも監督の受けたスターウォーズ初見時の衝撃っていうのは、もう享受しえない訳です。だってスターウォーズが生まれた後の世界に生を受けた年齢ですから。もっと言えば、もうこういう完全にまったく新しいもの、っていうのはほぼ誕生しえない世界で生きているとも思っているので。

 ただ、そのすごさ、興奮っていうのはTBSラジオリスナーなら宇多丸さんや高橋ヨシキさんとかのトークで推し量れている。なので主人公がジョーズに影響されてクマ映画を撮り、そしてスターウォーズに影響されて宇宙船を撮る。共感はしないけど分かる。そしてそこに完全にビジュ爆発している髙石あかりさん演じるヒロインが作品としても、作中作でも、抜群に輝いている。映画に大事なのはストーリーだ、テーマだ、など映画論がなされる作品ですが、間違いなく青春映画においては登場人物が輝いているか、が最も大切。その点でこの作品は輝いていた。吉田くんみたいなウザいけど味方にしちゃえばノリノリでクラスをまとめてくれる感じのやつも出てきて、登場人物は少ないながらもしっかり魅力的だったと思います。

2.嫌い!だと思ったら

 私の嫌いな映画の話をします。

 『ホドロフスキーのDUNE』という作品です。この作品は、『エル・トポ』などで知られるアレハンドロ・ホドロフスキー監督が砂の惑星を映画化しようとして、本当にめちゃくちゃ実現寸前までいったことを取材したドキュメンタリー映画。この映画を見るとホドロフスキーというじいちゃんが愛くるしいキャラで、彼の監督するDUNEが見たかったと思える、それは間違いありません。ただ、私が嫌いなのは彼を始めとしたこの作品で語られるスタンスで、それはこの作品こそ実現しなかったが、後のあんな作品やこんな作品に影響を与えたんだ!という主張。それはこの作品の戦果ではなく、そこから頑張った各々のクリエイターの成果物であって、それも傑作認定された色んな作品について後から「俺のおかげだ」みたいなことを言いだすのって、完全に横取りにしか見えないというか。映画製作の話である以上、完成して初めてその影響を公言していい、というものではなかろうか、という感覚があるんだと思います。見られてこその作品だろ、と。

 長々と語ってしまいましたが、じゃあこの『Single8』と一体どんな関係があるというのか。この映画は、作中作「タイムリバース」で主人公カップル以外の時間が逆転してしまう、というSFギミックを8mmながらに撮影しているのがとても興味深い作品。でもどうしたってさ『テネット』をパクってんじゃん…って思うじゃないですか。逆行する人の中で自分たちだけ進める、っていうまんまの絵面をやっている。それだけならパクリで済むんですが、監督の青春時代の自伝、ってなるとなんかこう『テネット』に近いワンダーを俺はもう発明していたんだ!って言ってるように思えて、とても心が離れたんです、正直言って。ただでさえ、タイトル的に『スーパー8』がよぎったり、8mmの編集作業とか、『フェイブルマンズ』で見たばっか(当然スピルバーグ相手なので予算感や巧みさが段違いにはなってしまう)でちょっと他作品の影がちらつくのに、と。

 ところがですね、ところがですよ!遂に完成した作中作の上映をフルでそのまま流してくれて、この時間逆行をどう打ち破るか、っていうのを秘したままなので素直に文化祭の上映を見に来た客と同じ気持ちで楽しめる上に、これが面白い。そこまでで離れていた心をぐいっと引き戻されたうえに、エンドロールでは今作のために引用された監督の当時の作品が出てくるんですが、えー、やってた!『テネット』より全然先にやってた!!本当にすいません!!物的証拠!!全力謝罪!!作中作が出したSF感もウルトラっぽいなぁ、と思ってたけど逆だわ、この人がウルトラの中の人になっている人だったわ。いや、でもセブンっぽい感じがしたからそれは流石にウルトラが早いのか?もうわからん。

 ついでに言えば、上映後のトークで『フェイブルマンズ』と被ったのはコロナ禍で撮影が止まって手元にあった自伝的企画や映画についての企画を見直したからではなかろうか、っていう指摘になるほど、と。他にも映画についての映画、最近多いですからね。これは順番が不運だっただけですね。

 という訳で、この映画について前半に抱いた不満っていうのは返上しなくてはならぬのが現状!