抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

打ち上げられた鯨「ザ・ホエール」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 本来なら公開日にupするのが通例ですが、今回はアカデミー賞授賞式同時中継キャスに参加する予定を鑑みて、アカデミー賞に絡む作品は授賞式前に出していくぞ!っていう所存です。

Safe Return

WATCHA3.7点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有)

1.あんたが優勝、ブレンダン・フレイザー

 もうですね、とにかくこの作品は俳優陣の演技が達者で達者で。そうですね、例えば『ファーザー』などと同様にほぼ一部屋で完結する戯曲原作なので画面の中で誤魔化せない部分が多い。しかもオープンセットというより狭い室内なので、逃げ道も少ない。カメラワークとしてもそんなに動いて騙し騙しが出来ない中ですばらしい演技アンサンブルが期待できます。

 まあどう考えても凄いのは主演を張りますブレンダン・フレイザー。これは常に私が負い目に感じる部分ではありますが、地上波で放送されてた多くの映画たちを見てきていなんですよ。だから、ブレンダン・フレイザーという俳優の絶頂期を正直知らない。『ハムナプトラ』シリーズは一本も見ていないっていうのに顕著ですね。出演作眺めても、ソダーバーグのクライム・ゲームしか見てない。でもその記憶がない。ということで、彼のカムバックというストーリーには全く乗れないんですが、とはいえ今作の彼は凄い。体重272kgの男性役ということで、単純にデカい。歩行器を使わないと動けない彼は、映画の開始時にいきなり発作が起きているのでもうdyingな状態。彼の終活についていく話ですけど、その巨体、っていうかソファーにいる時間がめっちゃ長いですけどそれで画面が持つ、2時間という尺が成立しているんだからもうそりゃ凄いっていうしかないですよ。画面における占有率がそのまま彼の存在感と言ってもいいレベルにある。この映画を見て主演男優賞を取ってほしくない、ということは非常に難しい。

 同様にアカデミーから評価されたのは、助演のホン・チャウ。ブレンダン・フレイザーの義妹という役柄で作中で医療への接続を拒否する彼に唯一医療的な側面からアプローチする存在。彼女は宗教2世(アメリカにおいてこの概念が成立するのか良く分からないが。)としての側面も持っているため、実の娘及び元妻に対しての現在での「家族」のような役割だけでなく、本作における宗教と科学というまず一つの構造において、宣教師と比較される役割も担っている。そういう意味では、若干彼女に担わせすぎというか、彼女個人の内面へはもうちょっと踏み込んでほしい気もしたが、しかし食い物を詰まらせたときの円滑な処置で人が死にかけるシーンが、しかし時にコメディになることを切り取ってみせたシーンは印象深い。

 まあ残りもみなさん素晴らしいんですが、娘役のセイディー・シンクは出色の出来であったと付け加えておきましょう。

2.偶像に死ぬやつら

 さて、本作の監督と言えばダーレン・アロノフスキー。非常に多くの傑作を送り出していることで知られる監督ですが、私みたいな映画弱者は『レスラー』『ブラック・スワン』ぐらいしか見ていない。そういう人間からだけで読み取れる話でひじょーに申し訳ないですが、そこの2作とのアレで考えると今回も偶像の中で死んでいく話だなぁというのが強い印象。それはある種の業として描かれてきた中で、今回はもっと根源的な業、藁をもつかむような、救いっていうものの偶像感、これは宗教に限った話でもなく家族だったり、人生の意義だったり、そして詩ですよ。エッセイ。主人公は、決して十全ではない。そも、結婚しておいてその家族を捨てて「男に走った」という事実は、シンプルに浮気ですし、あと教育者側が生徒に手を付けるのも本作ではさして重要な扱いではないが受け入れがたい。そして、それが同性愛だったことで今度は神に背いたことになる。あっちが正しかったことにすれば、こっちが立たない。そういう中で彼は自分の娘を希望の象徴として信じて、自分の人生が有意義であったと信じて死を迎えようとする。彼の終活は自分の人生に納得することなのだ。

 であれば、Sorryばかり言う彼の人生の良かったところを、娘のような血縁的な部分ではないところに求めたり、近くにいてくれたホン・チャウあたりにもっと担保して欲しかったし、っていうか徹頭徹尾ブレンダン・フレイザーは自分の人生が良かった理由は内省していない。縋っているだけ。誇りを持って死んでるのではなく、縋って縋って死んだ。でも、それはどこか『レスラー』のミッキー・ロークの死にざまが被ってくるし、そうか、アロノフスキーの映画の人物は徹底的にエゴイズムの中で死んでいくのかもな、なーんてね。ああ、今更だけど題材になっているメルヴィルの『白鯨』もそういう話か。