抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

アメリカへの諦観「スティルウォーター」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はFilmarksの試写会に当選しまして鑑賞してきたスティルウォーターという作品の感想です。NWHの最速上映から帰ってきて、先にスパイダーマンのブログを書いてから、いい加減指先が凍えながら打ってるんで、もう許してください。

Stillwater (Original Motion Picture Soundtrack)

WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレ有)

1.ハリウッド映画なのに感じる欧州み

 本作の舞台はオクラホマ、そしてフランス・マルセイユ。フランスに留学中の娘が恋人殺しの罪で逮捕→収監。娘の無実を信じる父親・ビルは、彼女からもたらされた新しい手掛かりから、捜索を始める。描写こそされていないが、既に収監から5年が経過。ビルはオクラホママルセイユを時々行き来する生活をしていると思われる。

 映画は歪な3部構成、とでも言えばいいのだろうか。オクラホマで解体作業に従事するビルを描いたのち、マルセイユにわたりそこで大部分を過ごす。そして事件解決後にオクラハマに帰ってきてのちょっとした時間。だから、全体を支配しているのはマルセイユでの時間なので、当然っちゃ当然なんですけど、アメリカ映画っぽくない。構成する要素である、フランス×サッカー×団地、みたいな雰囲気で、ラジ・リの「レ・ミゼラブル」なんかを思い出しました。まああと上映後の宇野維正さんがお話されていたように、ドゥニ・ヴィルヌーヴの「プリズナーズ」ですよね。まあどっちにしても、やっぱりフランス映画っぽさは感じたのは間違いないと思います。

2.マット・デイモン=アメリ

 ハリウッド界でアメリカを表現しきっている俳優と言えば誰であろうか。おそらくは、クリント・イーストウッドであり、トム・クルーズだろう。ただ、本作を持って、明確にマット・デイモンはそのランクに達したのではないか、と提言したくなる。

 本作におけるマット・デイモンの存在はアメリカそのものだ。アメリカ人にかかれば、フランス、しかもマルセイユのような大都市であっても、言葉の通じぬ蛮人の住まう土地、かのように描けてしまう。それはある種の、世界に通じるアメリカ、というかつては確かに存在した夢、という感じで、かつて油田で働き、油田閉鎖に伴って職を失ったビルはもういわゆる、っていうやつ。

 そんなビルがフランスで困ってしまっている中で、思わず頼ったヴィルジニー&マヤの母娘。ヴィルジニーはフランスの演劇人で、差別主義者に対して明確な悪感情を提示しており、まあインテリ層とでもいおうか、ビルの存在とは対極と言える。勿論、いまだ9歳のマヤだってアメリカ人の存在そのものが異質だ。だが、捜索に伴って彼女と行動を共にしていく中で、しれっと彼女の家に住み、4か月ののちには見事に溶け込み、彼もフランス語を簡単には解すようになり、マヤは更に柔軟に英語を理解していく。ついには、そこには明確に「家族」の姿が存在するようになり、ビル=アメリカも他者を受け入れ、変われるのだ、という希望の光を感じる。あの瞬間までは。

 びっくりするぐらいの見事なOM(オリンピック・マルセイユ)の試合を観戦中に、探していた容疑者を見つけてしまったビルは、彼を地下室に監禁してしまった。そこにある「家族」よりも、本当の家族である娘の無実の為に自分が法を犯すことを選んでしまったのだ。娘が1日だけ外出が許可された日に、確かに4人での新しい「家族」がそこに見えたのに…。

 そう思えば、一見変わったかに見える彼だが、チェックシャツをズボンにインして、キャップを屋内でもかぶるその姿は決して変わっていなかったことを思い出す。変わっているように見えて、変わっていなかったのか…。そうして強引に手に入れたDNAで娘の無実を公的には証明したものの、実は娘は教唆していた、という悲しい事実に、オクラホマに帰っても、マルセイユでの穏やかな時間に見せた笑顔は見えない。ビル=アメリカ、と考えるならば、フランスから娘を連れ帰った際に開かれる州を挙げての式典、ああ、アメリカはまだ変われない、いや、もう変われない、そんな諦観すら感じる。

 

 最後に、どうしても触れておきたいのは、マヤを演じたリル・シャウバウ。頂いたプレスには、ふだんはパフォーマーで、ダンス教師の勧めで挑戦して獲得した役、なんと今作が演技初挑戦だという。すっごいキュートなだけでなく、ビルをかばう意志の強さ、更には最初は英語がわからないのに、徐々に解してコミュニケーションをとれるようになる、という演技の難しさ、すべてをしっかり表現できており、早くも2022年の子役オブザイヤーに名乗りを上げたといっていいだろう。