抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

誰がために法はある「コリーニ事件」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 遂に、遂に2か月ぶりに新作映画をみたぞぉーーー!!!!!

 ありがとうオンライン試写会!大好きだオンライン試写会!

 上記はまだ緊急事態宣言が出されていた頃に書き上げた感想なので勢いがつき過ぎました。ブログ公開時点では、これが新作一発目ではないというサプライズが。いや、映画館こんな早く復活すると思ってなかったのよ。でも週に3本も新作映画の記事が書けるって素敵な話じゃない。

Der Fall Collini

WATCHA4.0点

Filmarks4.2点

(以下ネタバレ有り)

1.静の法廷劇

 

 本作はドイツの法廷もの。いきなり事件が起こり、捕まるコリーニ。それを主人公の新人弁護士カスパーが国選弁護人として担当するものの、被害者はカスパーの恩人で…というお話。

 法廷劇は法廷劇ですが、真相を突き止める!真犯人が!!というタイプのどんでん返し系ではなく、極めて静かで、そして重苦しい法廷劇であります。とにかく大事なのは動機。動機如何で故殺と謀殺で刑罰が異なり、終身刑(調べてないけど多分死刑が無いので最高刑)のおそれもある、ということでいわば撤退戦。情状酌量の余地を勝ち取るだけの裁判。それなのにめっちゃ面白かった。

 被害者が主人公の恩人ということで、検察側には遺族代表として幼馴染でどうやら交際歴もあるヨハナや、さらには公訴代理人でカスパーの刑法の授業の先生だったマッティンガー教授も参戦。なんかもう公私ぐっちゃぐちゃで進むので、当然公判期間中なのにバンバン密談、取引が横行するわけです。

 見せ方としてとっても上手だな、というのが前後半でカスパーと検察陣への見え方がひっくり返るところ。前半は良き父代わりとしての被害者、ハンスや法曹界の先輩としてのマッティンガーがかなり良い人に見えて、とても殺されるような人には感じない。ところが、ヨハナとマッティンガーがここぞとばかりに悪役ムーブを発現させていき、事態が判明していくとどんどんハンスが悪く見え、コリーニに対してなんとか情状酌量を、という気持ちにさせる感情の誘導が非常に巧みだったと思います。ここに関しては、戦時中のハンスを演じた俳優さん(ヤニス・ニーブナー)の悪辣さも上手く買っていたでしょう。勿論、だからといってカスパーに優しくしてくれたハンスが偽善だったということではありません。そんな人でも凶行に及んでしまうのが戦争の怖さなんだろう、ということですね。ありきたりで申し訳ないですが。

 こうなると個人的に悪人だと思っていたり、社会状況的に弁護することが躊躇われても弁護士としての責務を全うするstand man的な展開なので『ブリッジ・オブ・スパイ』はじめ、まあ私の大好きな展開ですよ。

 もうちょっと、カスパーの少年期を掘り下げられれば良かったかな、という気もしますが、ワルサーのあたりとか法廷ものなのに台詞少な目で絵で説明するのとかすごく好きでした。っていうかルパン、お前ナチスと同じ銃使ってたんか…

2.最高のフランコ・ネロ

 この映画を語るうえで、もう外せないのが殺人犯ファブリツィオ・コリーニ役のフランコ・ネロ。今年スクリーンで彼の代表作『続・荒野の用心棒』を見て感動した、というのもあるでしょうが、彼の名演には唸らされる。

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 冒頭、まずはハンス殺害後にエレベーターから出てホテルのロビーで事件が発覚するまでのシークエンス。血痕の付着した状態で彼の歩いた後には赤い足跡が。足跡にフォーカスして、ビシッと顔にパンするまで我慢するカメラワークも素晴らしいですが、この登場はまさに『続・荒野の用心棒』のジャンゴを彷彿とさせます。

 そしてこっから、コリーニは一言も喋ることなく40分が過ぎるのです。ところがその顔の雄弁な事。全てに絶望していて、それでいながらどこか満足しているような。その読みは当たっているのですが。家族についてカスパーが話したことで口を開き、動機の発端についてのキーワードが出た瞬間の顔とそこから拒絶していた煙草を吸い始めカスパーを認めた瞬間。更には裁判に関連証人が出廷した時の驚き。遂に感情を露わにして法のおかしさを訴える場面。最期の握手。

 すべての場面が脳裏に焼き付く、まさに名演でした。個人的に今年の助演、決まった感があります。

3.法は誰を守るのか

 今回の映画は原作こそフィクションですが、原作小説が原因で実際のドイツの法務省を動かすほどの大問題となります。

 そのキーとなるのが、コリーニが私刑を行う原因となったハンスの戦争犯罪の不受理。ドレーアー法なるもの。謀殺幇助を故殺とみなす法律で、これに伴い時効成立、戦争犯罪での告発を免れたものが多くいる、ということのよう。軽ーく調べた感じ、ナチ時代の虐殺について、命令に従っただけの者は幇助になる感じみたいです。

 なので今回はナチスものであるにも関わらず、ユダヤ人やホロコーストが一切関係しない極めて普遍性の高いものである、と言えるだろう。戦争犯罪を裁くにあたる遡及性などの専門的なものから、当時は合法だった、で片づけていいのか問題、そもそも法が絶対なのか、何のために法律を作るのか。ソクラテスも死ぬときに言ってましたね「悪法もまた法なり」と。法治主義と法の支配のバランスは。そう、ナチスを題材にしているとはいえ、極めて普遍性の高い問いかけをしているのです。

 判決が下る前にコリーニは自殺し、今回の事件において情状酌量が認められるのか、公的な判断は下されませんでした。またもやありきたりで申し訳ないですが、それは僕らが個々人でどう受け止めるか、なんだと思います。なんかどっちかのジャッジを下した法がカタルシスは出ると思いますけど、これはスッキリして映画館を出るタイプの映画じゃない。「否定と肯定」とはタイプが違うと思うんです。法治主義と法の支配のバランスに正解無いっすもん。

 

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