抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

聖林「MaXXXine/マキシーン」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 一通り面接した後に車に乗ってカメラが下に落ちる、ナンバープレートがMAXXXINEっていうのは良かったです。いい始まり方でした。あの後のランディング・ストリップに入っていくとこは『ブギーナイツ』を思い出しました。

MaXXXine: The Novel

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

 『X』『Pearl』とミア・ゴスを主演に据えて2つの時代で映画のスターに夢を見ながらも、ポルノ的な消費のされ方と映画の文化史に沿っての人殺しを描いてきたタイ・ウエスト。完結編となる本作は舞台をハリウッドに移す。となれば、当然「今度は戦争だ!」と言わんばかりにハリウッドを血みどろにしてくれることを期待したいのですが、どうやらそっち方向ではかなり抑えていると前評判。ということで、今回はスプラッター映画、ホラー映画的な文脈での評価は特にしていない。前もって。

 で、じゃあ何の話かというと、『X』の惨劇から逃げのびたマキシーンはポルノ映画である程度のスターとして活躍している状況。そこからハリウッドのスターを目指してホラー映画のオーディションを受け、遂に『ピューリタン』なる映画の続編の主役を勝ち取る。マキシーンが映画スターとしての道を歩み始めようとする中で、ハリウッドにはナイトストーカーなる殺人鬼が横行し、マキシーンの周りの人が死んでいくというどっちかといえばサスペンスの文脈。ここがまずもってあんまりうまくいっていないところというか、マキシーンの周りで人を殺していたのは、マキシーンのお父さんであり、ある種の保守的なおじさんというか、ハリウッドというものそのもの、あるいは暴力やエロといった表象が若者を堕落させている、悪魔的である主張の下、娘を助け出そうとしていた、みたいな感じで。ここに対決することになるんだったら、お父さんをぶっ殺すときにそうじゃない!っていう演説があるもんだと思ったらそうでもない。ジャンル映画的な試み賛歌とか、ハリウッドに、特に劇中の舞台にあるような時代には、否定できない搾取の側面を肯定も否定もしていない、その中でのし上がる覚悟一本槍でこられたのはちょっと残念だったというか。『X』での件がトラウマ的に蘇っているようではあるのだが、その克服と映画撮影やマキシーンがスターになること、そして今回の事件の解決とが有機的にリンクしているとは言えないように思えた。親父の頭にぶっぱなす時点でのある程度のケリは感じるが、なんというかそれも勢いに近い。結局マキシーンの脳裏に刻まれるフラッシュバックが増えただけではなかろうか。

 ホラーやポルノが悪魔的な表現である、という批判は劇中の一般大衆によって繰り返し描かれる。タイ・ウエストは『悪魔のいけにえ』みたいな文法を軸にしながら、『X』でそういうスプラッタホラー自体に言及していく試みをしてきたのだから、当然ここにも応答があることを期待していたし、マキシーンが懇意にしている階下の店主が営むのはビデオショップだった。かつてハリウッドという場所が意味した「映画」というメディアが時代が進んだことによってテレビだったりの画面で見られるようになっていった、それに伴って本来の意味とは異なる現在的な意味でのB級映画が普及していった=ポルノやホラー、暴力表現がどんどん人口に膾炙することになる、みたいな方向での言及まで射程を拡げているものだとばっかり思ったものだ。なんか単なる巻き添えっぽく殺されたというか、マキシーンが警察と話すためだけに殺された感じがして残念である(もっというと、警察と話すこと自体も警察を最終地点に連れて行くためだけの手段に見える)。

 勿論、エリザベス・デビッキが創造性あふれる映画監督でありそうながら、ホラー映画の続編監督に収まっている時点でのハリウッドでの不均衡だったり、警察のツーマンセルも男の方が威圧的で余計な一言を言って邪魔をしたり、そもそもナイトストーカー自体がフェミサイド的な空気を纏った殺人であることは見逃せない。ハリウッドに代表される映画業界が長らく女性を軽視してきたこと自体には言及できているし、そうやって起きた殺人事件のゴールがハリウッドサインのまさにその場所で起きていることは凄く象徴的ではある。登って登って、辿り着くのがあそこで。でも、結局本作はそうしたハリウッドを使った色々は、あのマキシーンがハリウッドにいるよ!程度の味付けにしかなっておらず、好評だったホラーの続編を撮影しようとする劇中同様の位置づけながら、『サイコ』のように続編になっていくにつれトーンダウンすることも受け継いでしまったような印象だ。ハリウッドを生かしきれていない、というよりもハリウッドに呑まれている。