抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

リスペクト「僕らの世界が交わるまで」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はヒジョーに楽しみにしていた作品。ジェシー・アイゼンバーグ初監督作品になります。そしてエマ・ストーンがプロデューサーに入ってる。エマ・ストーンマーゴット・ロビーのこういう姿勢は本当に素晴らしいと言いたい。

When You Finish Saving the World (Original Motion Picture Soundtrack)

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

1.世界を救い終えた時

 この作品は実にシンプルな親子の物語だ。ジュリアン・ムーアが演じた母エヴリンとフィン・ウルフハード(ストレンジャー・シングスでお馴染みらしいが見ていなくてごめんなさい!)演じる息子ジギーが交わらない、そういう話。

 なのでもうそれを完璧に示した最初は十分で、ライブ配信中なのに息子の部屋を空けちゃうお母さんと、それを咎めようとして今度は母がシャワーを浴びているのにドアを開けてしまう息子。こいつら互いに互いのことを考えておらず自分のことしか考えていないから、勝手に人の部屋を開けちゃう訳で。なんだったら、この先この描写以上のことは起こらないというか、とにかくそこの方向性で大きく劇的に変わることもない感じなのは残念ですが、ベタを丹念にやったという評価はできるでしょう。

 ただまあ、この両者に対して対等な評価はできないですよねー。10代で自分の配信チャンネルを持っていて、2万人のフォロワーがいて投げ銭も飛んでくるジギーがある程度全能感を感じてしまっていたり、好きな女の子の興味のある話題に飛びついて痛い目を見る、なんてのも可愛いもんです。若さですよ。ええ。

 一方で、エヴリンはDV被害者たちのセーフハウス、シェルターを経営している身であり、っていうか立場とか肩書云々の前にいい大人のはず。自分の中で一体どういうことを考えているか、分からなくなった息子の代わりに避難してきた女性の息子に入れ込みだす始末。まあ加害していた父の下で自動車修理工をしたいっていうのは、父側のある種の洗脳が入っていてそこから抜け出す為に教育を与えたい、っていう姿勢自体は理解できるんですが。だんだん本人の意志、お母さんの意見を無視しだすし、学校に特攻しだすあたり本当に見ていられない。散々手伝わせておいて、自分の分からないスペイン語での会話が始まったら露骨に機嫌悪くしているし。一人の大人としての振る舞いが出来ていない状態で、他の入居者たちとかは大丈夫なんだろうかとはっきり不安になる人物でした。そういう人物として完璧に演じたジュリアン・ムーアの演技は素晴らしかったです。

 揃いも揃って自分の世界を相手に押し付けることしか考えていないコイツらですが、これがまあでも映画を見るような日本人には(主語大きくて申し訳ない)多分ある程度クリティカルヒットするような気もして。中流層で教育を一定程度受けていて文化的素養もある、国際的な課題に関心もあるんだけど、それを特権的に捉えているというか、自分たちは考える側、解決していかないとならぬと進歩主義的に手を差し伸べようとしているような。名誉白人なんて言葉もあったりしますが、割とそういう言説を見かけるようになった気がするんですよね。違うな、私がSNSのやりすぎなだけか。

 まあとにかく、そういう具合でツールとか自己満足の手段としての社会問題を考える層を結構弄ってきている映画だな、っていう風には思いました。なんてったって原題ですよ。When you finish saving the world。finishの後ろは必ず動名詞ですよ、不定詞は使えませんよ、なーんて言っていた中学英語のことを思い出していただいて。あんたが世界を救い終えた時、という訳であっているとは思いますが、じゃあそれっていつなんですか、と。ジギーはこの曲で2人で世界を救えるじゃん!と調子乗っていましたが、無論そんなことは無理だし、エブリンの活動も世界を救うんじゃなくて目の前の人を助ける地道な活動のはず。そう、基本的にはそんな時なんか来ないのだ。悲憤慷慨、世界のことを云々言っている中でそれをネタに90ドル稼ぐようなことをしてるやつへの、世界を救えると思っている奴への皮肉だ。であると同時に、だから目の前の人のことをしっかり見つめて救いなさいよ、今がハグするタイミングなんですよ!っていう愛のメッセージでもある。まあそういうタイトルなんだと思って楽しみだったんですよね。邦題も僕らの世界が交わるまで、ということでより後者に力点が置かれたとはいえ、悪くないタイトルになったと思います。

 それにしても、一生に1度の表彰をスルーされてぼっちだったお父さんは大変に可哀想である。赤ワインおいしくないっていってもジュリアン・ムーアは聞いてくれないし。