抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

愛しの我が家「コンクリート・ユートピア」感想

 どうも、抹茶マラカスです。

 こちらは2023年に試写会でみた映画。つまり、2024年公開作品で最初に見た映画でございます。新感染2、非常宣言、そして本作。年始1発目の新作は景気のいい韓国エンタメってのが定番になりつつある感じの興行ですね。

 などと記していたのが2023年のうち。能登半島を襲った震度7地震の被害の全貌も明らかにならないうちからはどうしてもおススメしづらい映画になってしまった気がします。

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WATCHA3.5点

Filmakrs3.7点

1.韓国社会と我が家

 まあ『蠅の王』的なことございますよ。厳密には違うんだけど。とにかく世界がこのアパートだけと言っていい状態になった上で、はてさて人々はどう動きますかっていう話。イ・ビョンホン演じるキム・ヨンタクさんが住民代表に祭り上げられていくっていう軸と、極めて平々凡々なパク・ソジュン演じるミンソンとパク・ボヨン演じるミョンファ夫婦の間の軋轢と変化、みたいな軸。大変分かりやすいし、知っている展開しかないっていうのは事実。

 ここしか無事じゃないので他の人たちとの対立が先鋭化し、結局彼らを追い出して独立国家に近くなるんだけども、そうなれば当然匿う人とか出てくるし、物資は足りないから外にいかなきゃいけないし。『ミスト』とかの先人が上手いこと描いてきた閉鎖空間での人間の異常性というか、そんなことまでしちゃうんだ!っていうことを描くのは良くできている。婦人会長が自分の息子の生死次第で「殺人鬼」という言葉を聞いてブチギレから発する立場に変わってしまうのとか、定番なんだけどとても良くできているなと思います。

 時間が進むにつれて、配給制全体主義国家で当然のように起きていく内ゲバと総括が始まり、浄化作戦で裏切り者を排除していく方向に動くにつれ、ソ連の再放送でも見ているんだろうかと思わされる訳です。「アパートは住民のもの!」連呼がどう来てもナショナリズム称揚。んで、これが韓国映画というだけで「韓国人も北朝鮮のことを見下したり笑ってはいられないのでは?」という視点が生まれるのが達者。話としては完全にエンタメなのにそういうのを入れてこれる辺りに韓国エンタメの実力を垣間見ました。

 まあとはいえですね、ごく普通の人だったはずの主人公が体制に呑まれていき、反対に妻は常に正しさを見据えて正しさを押し付け続けて却って争いを大きくしてしまうような話だったりと、やはり独自性としては特にないかなっていうのが正直なところ。彼女がどうしようと、自称キム・ヨンタクはしっかりとプロセスを経て信任され、自らの頭で鉄パイプを受け、自らの拳で物資を奪い取ってきた人物であること自体は事実。そこにどう向き合って彼を転覆させればいいのか、っていうことに関してはそんなに考えることなく進めてしまうからあっさり証言者だったパク・ジフ(『はちどり』の!)だって殺されちゃったよね、っていう。誰も彼もヒーローはいない、っていうのを緊急避難もあり得る状態で描いたわけでした。一番もったいないな、って思うのはディザスター・ムービー感がちっともないこと。とにかくこのアパート以外を残して韓国を壊滅させた自然災害がなんであり、今後どんな危険が迫っているのかがなにも描かれずに、ただ孤立させる設定としてだけ使っているのでそこの緊張感が無いのが勿体ないな、と思います。まだ『#生きている』とかの方が孤立設定を生み出すためのゾンビとかで割り切った上でジャンル的面白さを残していて好みだったかもしれません。

 それにしても、『パラサイト 半地下の家族』は勿論ですが、未見の『奈落のマイホーム』含めて韓国における住居を買う事、ということは少し継続的にチェックしてもいい猟奇かもしれませんね。土足で家に上がることを拒否し続けたイ・ビョンホンも死に際はマイホームであることにこだわっていましたし、韓国における「マイホームが壊れる」映画っていうのは、成長神話の崩壊とか、そういうポストモダンの動きなのでしょうか。