抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

大盤振る舞い「ハント」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はひっさびさの韓国映画でございます。『イカゲーム』で世界的スターになったイ・ジョンジェの監督・主演。個人的には『ただ悪より救いたまえ』のやべーやつで、『新しき世界』の人。

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WATCHA4.5点

Filmarks4.3点

(以下ネタバレ有)

1.組織対組織で個人対個人

 とってもシンプルなお話。国家安全企画部海外担当イジョンジェのパク次長、国内担当チョン・ウソンキム次長、この二人がどっちが北朝鮮に内通しながら作戦を流出させている存在、トンニムなんだっていうのを疑い合う映画。わっかりやすい。この国家安全企画部の部長さんが(正確には新部長さん)やり手もやり手というか、海外担当には国内担当を、国内担当には海外担当をそれぞれ調査するように指示して完全に競い合わせている。そんな内ゲバみたいな状況で大丈夫なんですか、っていう思いは持つんですけど、いや世間がそういう時代じゃないですよっていうのをきちんと準備として描けている。光州事件からの軍事政権で、南北対立よりもそっちが優先で赤狩りしてる場合じゃないんですよ的なね。ここの光州事件含めた民主化運動に関して言えば、『タクシー運転手』『1987、ある闘いの真実』とか民主化運動自体をエンターテイメントに仕上げた作品を韓国映画は作り上げてきました。その上で、そこをベースにして背景として政治の問題が絡むんだけど作品自体はシンプルにジャンル映画的なエンタメに出来るフェーズに作り手・観客双方が達しているのかしら、なーんて思いました。明らかに軍事政権を揶揄する内容なんだけど、熱い男二人の対立の物語の邪魔はしないし、その対立って結局何のための対立でした?何を守ろうとしているんでしたっけ?っていう話だから基礎としてしっかりはやっぱり政治が聳え立っている。あらゆる表現(あるいは表現しないこと)は政治的だと思っているので、こういう完全に基礎に政治があるエンタメってやっぱ好みですね。日本はいつになったらそうできるんだろう。

 さて、話をこの映画の中身に戻しますが、いやぁ面白いですよね。パク次長とキム次長はそれぞれ確実に腹に一物隠し持っているタイプの人間な訳で、一体どうしてそこまでトンニムをちゃんと探そうとするのかっていう意図も分からないまま攻防戦が続いていって。パク部長がキム次長の軍隊の時代の同僚の軍事会社を摘発すれば、キム次長はパク次長が面倒見ていた元部下の娘をしょっぴいてくる。ここの娘をキレたふりしてかばうところもカッコいいし、最後にこいつがパク次長を射殺するけど韓国のパスポートで出国を選ぶっていう南北対立から逃げ出せる選択肢で終わるのも良かったですね(本当にこの対立から逃げきれるかとは別の話)。アイツが怪しいと思ったらコイツが怪しい、って次から次に出てくるかと思えば、そいつらの正体がこれでした!とかみたいなのが終盤は連続してくる。いやぁ面白かった。

 一応、自分が忘れない為に書いてはおきますが、結局のところトンニムだったパク次長は北朝鮮の為に大統領暗殺と同時に南に攻め入る火花作戦に従事し、キム次長は軍事政権を許さない国内的観点から新地球作戦を敢行し、結局両者とも大統領暗殺という目的でバンコクへ向かうことに。このバスの中での両者の横隣なのもまた良い。あ、その前のそれがバレるシーンでキム次長がもみ消した瞬間もアッツ!!となりましたな。

 その上で、国籍とは逆の方向に動いてしまった両者、何が何でも殺したいマシーンと化したキム次長の暴れっぷりも最高でした。東京での北朝鮮の技術局長亡命作戦でのドンパチだったり、軍事作戦で全滅していたり楽しいアクションシーンはいっぱいあるんですけど、病室の前で海外担当と国内担当がもみくちゃになるあたりからいっこフィクションラインが変わってきて、そのまま最後は完全にド派手にやっちゃえ!って感じですからね。いやお前ら韓国の外でばっかり派手だな!!大好きだ!あと癖強すぎたファン・ジョンミン!最高だ!『工作 黒金星と呼ばれた男』もファン・ジョンミン主演の南北スパイ映画だから見てくれ!!

 取り乱しましたが、いやはや結局パク次長は独裁を暴力で終わらせることを選べなかった、逆にキム次長は救いに足が動かずむしろ直接動く。未だ続く南北問題に解決策をおいそれとは提示できないんですけど、少なくとも次の世代のために、とか暴力じゃない方法で平和を求める、みたいな普遍的な出口になっているんだから納得度は高いですよね。