抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

照射「サーチライト-遊星散歩-」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は邦画です。昨年のムーラボで『朝がくるとむなしくなる』&『日曜日とマーメイド』以来の新宿K's シネマ。そしてその時に先行上映されていた作品の一般公開。11月3日までらしいのでお急ぎでどうぞ。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレ有)

1.青春を許されないagain

 さて、今回の作品はヤングケアラーを題材にした青春映画。『少女は卒業しない』『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』を経ての中井友望さん主演映画ということで鑑賞!と決め打ちになっていたために、見事に予告編とかを見ていなかったので思っていた5倍ぐらい重い話でびっくり。レビー小体型認知症になってしまっているお母さんを16歳、ひとりで介護する立場である果歩が必死に毎日を生きている、そういう感じ。

 まず映画が始まったタイミングでは、前述の通り状況を把握していないものですから、この果歩という少女は果たしていい人間なのか?と疑ってしまうんですよ。夜の街を走っている、という導入もさることながら、友人と連れ立ったファミレスで何も注文しないどころか、なんかもう協調性ないです!っていう態度・姿勢に見える。その上で、帰宅した家が完全に中から開けられないようにドアの前に洗濯機を置くという。介護の話だと分かっていれば驚かないでしょうが、私は知らなかったものだから、この子はお母さんを監禁しているんでしょうか?という疑心。そして作ったご飯が供される食卓は、果歩は白飯とみそ汁なのに、お母さんの方にはしっかり魚だ野菜だがある。この非対称性。この二人に何らかの権力勾配があるんじゃないのか、なんて思わせる緊張感。この後のキャベツ帰宅によるロールキャベツ食卓も含めて、今年の食卓描写でトップクラスの緊張感でした。『逃げきれた夢』もそうでしたけど、極めて普通の生活に見えるのにそれがスリリングに感じる演出っていうのは多分大好物なんでしょうね。こうしたスリリングさは、この後のトイレットペーパーをパンパンに詰めて閉まらないエナメルバックとか、そういう描写なんか含めて飛び出す限界までギリギリまで来てるよ!というところからも読み取れて。

 さて、ここの食卓の後は学校のトイレットペーパー盗みとかを経て、JK散歩というビジネスの世界に足を踏み入れてしまう果歩。飛び出していってしまうお母さんを見つけるためにも、携帯代が欲しいんだ。そしてついにホテルにまで行ってしまう、彼女なりの、しかし浅はかな覚悟を持って挑んだところに、もっと浅はかで真っ向なバカ(誉め言葉)の上野くんが乱入して奪い去っていく。彼が直接的にお母さんを治せたり、お金をあげたりで事態の打開を図れるわけじゃない。でも、そこで自分を犠牲にしてっていうのは違うって訴えかけてくる。事態に対しては、学校の先生も、役所の人も、警察の人も、友人も、みんなすごく冷淡な訳じゃない。でも彼らには彼らの日常があって、その中での一幕に過ぎないから、果歩に全力を尽くすわけではないのだ。

 そういった一連の内容は、題材こそ違いますが『マイスモールランド』に非常に近い印象を受けました。どちらも現代日本においてまったく無視できない社会問題をメインテーマに据えていながらも、それが前面に出ているというよりも青春映画としてのパッケージをしっかり作ってそこにテーマを内包させることに成功している作品、といえるでしょう。今回の作品では、果歩自身がお母さんが離れたくないという動機で状況を他者に公開しておらず、『マイスモールランド』よりは公が介入しづらい状況になっているのを、その母娘の対話によって一旦の解決を見ることで厳しさを訴えたり、切迫していることを示すよりも優しさを伝えている印象に。何度も繰り返されるサーチライトの光のように、どこかの誰かが出した光が別の誰かに見つかって、みたいな他者への視線っていうものを意識させるような感覚を持ちました。って訳で章題をマイスモールランドのブログから引用しました。

 役者をメインで見たいな、と思ったという観点から復習しておくと、主演中井友望さんは、まず文句なし。期待していた彼女独特の空気をしっかりまといながらも、JK散歩のシーンなんかに踏み出してもそこにノリノリでいっている感じでもない悲壮さを滲ませたり。あと彼女は声がいいですよね。他の女優さんと被らない声質でとてもいいと思います。ただ、この映画で最も称賛されるべきは山中崇さんでしょう。果歩を買う男ですけど、正面切ったクズであり、でも確かに果歩に5万払って(散歩に出る時点でシャンパンがいると言っていたので多分正確には10万)その金がいるって言ってんだろ、っていうある種こういう買春が無くならない構造的な部分をあぶりだしてくれる、この作品の格を担保する印象的な役でした。

 大体ね、FOXサーチライトはいい映画が多いんだから、サーチライトって名前の映画が悪い映画な訳がないんですよ(暴論)。