抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

加害者で被害者で「PIGGY ピギー」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 無理やり1日で見たいやつを見に行こうとしたらぽっかり空いた時間があったので、本作とまだ見ていなかったシティハンターとどっちにするべ、と思ってアンケートをとったらこっちが勝ったので見に行きました。あたしゃアンケートの奴隷です。でも面白かったし、自分で行くタイプの映画じゃなかったんでおっけー!

f:id:tea_rwB:20230930014410j:image

WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレ有)

 

 

1.リベンジホラーの変形

 非常に興味深い導入となる本作。殺人鬼と少女、という話となるとどうしても殺人鬼に追いつめられる被害者っていうポジションが普通だと思うんです。ところが本作は主人公となるサラは目撃者っていうポジション。しかも被害者ポジションなのは日頃サラをいじめていたやつら、という。この映画においては殺人鬼による直接的な殺害シーンは殆ど描かれず、サラのお父さんをボッコボコにしていたシーンぐらいしか明確な描写がありません。そのため、序盤にこの連中がする仕打ちったらもうそれは酷いものでございました。SNSに一家の写真を完全にさらして豚呼ばわりも相当ひどいというか、法的にもアウトな部類だと思いますが、その後のプール(スペイン人はあれがプールなんだ、って思った)での網で浮上した瞬間を狙い撃つ遊びは醜悪というか、ほぼ殺人未遂にしか思えません。この映画でふるわれるどんな暴力よりも残酷でこっちがくらうやつです。

 ってことで、眼前でバンに連れ込まれた友人の助けを無視して、更にはプールにはいっていない、という嘘で明確に最後の目撃情報を封殺してしまう訳です。本来ならばめっちゃ害悪ムーブなんですがこれが彼女が悪く見えない。そこにお母さんのサラに対する姿勢、攫われた友人の母の剣幕なんかで、どんどん追い詰められていくサラがむしろ可哀想に見える。彼女を可哀想、と思うことは作り手も想定して急に良くしてくれる男の子も言っていました。

 直接的に自分をいじめていた連中に仕返しをするのではなく、危機がそこに迫っているのに見殺しにする、黙っているというちょっと間接的な方法での復讐となるリベンジホラーとその危機の要因がスプラッタの文脈になっているっていうジャンルミックス的な新しさがありました。その上で、スプラッタでたまに見る変形型というか、殺人鬼と主人公が恋に落ちている…?みたいな文脈も増設されている。

2.加害と被害の境界線

 いじめという題材が出てきて、サラのポジションがいじめの被害者でありそして迫りくる殺人事件の間接的な加害者でもある。人間が生きていくうえでは、やっぱりどうしても加害と被害の両面をも持ってしまうんですよ、っていうのを改めて教えてくれる訳です。勿論今回の殺人鬼は加害者側ですが、サラにとってはイジメている連中を襲ってくれた救済者でもある。で、対殺人鬼では純然たる被害者である友人3名は当然のようにサラに対する加害者でもあります。直接的に侮蔑・いじめをしている2人だけでなく、見殺しにしていたり最終的にはタオルを持って行っちゃうクラウディアも同罪。彼女を責める視線は、そのままこの映画後半のサラをも責める視線になってしまいます。同時に、殺人鬼のバック突撃で「腕が!」とか粉砕されてた男連中やSNSでコメントしていたどこかの誰かだったり、この映画においては人を傷つけるやつらばかりです。

サラのお父さんとお母さんも殺人鬼に襲われた被害者でもありますが、劇中の描写でいえばサラに対しての過保護ともとれる態度でサラにとっては少し息苦しいように見受けられる。特にお母さんのやり方っていうのは結構露骨で、豚と呼ばれていじめられていると知ったらサラに野菜を食わせて痩せるしかないって脅しをかけておいて、外に対しては恥知らずと怒っていて、あーこの人自分のメンツの方が大事なんだろうなぁって思わされてしまう感じです。一方で、弟はサラにとっては守るべき一線であることが分かり、サラはおそらくこの段階で家族っていうものは自分を縛っていると思っていたけども、守ってくれている側面もあり、そして自分もそれは担うんだっていう感覚を表出した…のかしら。弟が殺されるのを止めた段階で、最終的にリベンジホラーだったのにいじめをしてきて、あまつさえそんな段階で子豚と呼んでくるクソを、それでも助ける・赦すっていう決断に至る。それを誰かに迫られたのではなく自分で決めて、自分の足で屠殺場かなんかを出ていったサラの後ろ姿は美しく、勇ましいものでした。彼女自身の体型をお母さんの意で決めるのではなく、自分のことは自分で決める、っていうセルフケア的なメッセージをこういう形で表現してくるのか!っていうように感心しました。