抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

父を探して?「さがす」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 本日は期待の日本映画作品…ばっかりな気もしますが、まあでもその名にふさわしいでしょう。『岬の兄妹』の片山慎三監督の最新作にして商業デビュー作です。試写会で拝見させていただきました。試写いっぱい当たってうれしい。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下試写会でここまでしか言わないで下さい程度にはネタバレ有)

1.演技巧者が見せるサスペンス

 まあね、ネタバレがどうとかある中で、最近はスパイダーマンNWHとかでね、ネタバレに敏感なのもあって、始めは俳優の出来あたりから触れていきたいと思います。

 主演、という立ち位置になる佐藤二朗は最近とみに福田雄一演出の演技タイプだけを期待されまくっていて、マジで辟易するレベルだったのが銀魂2とか、かぐや様だった訳で。今回はそういうのを封印…とまではいっていませんが、基本シリアスなのでしつこさを感じるところは非常に少ない。むしろ、序盤に見せたしつこさの正体もだんだん分かってくるし、普通に評価されてしかるべきでしょう。日本の映画・ドラマ界はこういう使い方をしてください、っていうお手本に近い。

 ただ、その佐藤二朗を圧倒してしまっているのが周りのみなさん。

 まず佐藤二朗演じる原田智の娘・楓役の伊東蒼さん。𠮷田恵輔監督の『空白』でも相当凄かったらしいんですが、いかんせん見逃してしまっていまして。という訳で今回初めて見たんですが、この方はおっそろしい才能ですね。分けるんだったら3パートになる本作の1パート目は、いなくなった父を探す楓っていうパートなので、ほぼ主人公格。彼女の過ごす日常の描写から、『岬の兄妹』の貧困描写なんかを思い出したりもしました。ショップチャンネルを眺めるのがレジャーっていうのはすっごいフレッシュ。そしていなくなる父。そこからおそらく前作で仕方ないにせよ批判された福祉への接続とかの部分を彼女、および学校の先生がしっかり担った上で、無能感あふれる警察など、幾多の障害の中、ついに島までたどり着く。自分に告白してきた男子をこき使うために胸を見せたりと、結構すっごいことをしている女の子なのですが、こういう環境で育ってきたなら仕方ないよね、みたいな部分と、どんなにダメ人間に見えてもお父さんのことは大好きで、みたいなことを完全に演技だけで見せ切っている。これはえぐい。関西弁上手かった…

 あと、印象的だったのは、死にたがりの女性を演じた森田望智さん。これも全裸監督で話題になった方らしいんですが、すいません、見ていないのでね。彼女も本作において明確に発見、と呼べる演技を見せていたと思います。殺人鬼山内、清水尋也に対してあなたは正しい、佐藤二朗に殺してくれ、と迫るシーン、そして何より公衆トイレでのシーン。彼女もまた、生きていても仕方ない、と思わせるだけの人生を背負っていたように見えました。凄い。

2.予告編では見えない重いテーマ

さて、本作の話は予告編からすると、いなくなった父の名を騙る指名手配犯、という状況に対するサスペンスではありますが、それは1幕目まで。そこで舞台はは3か月前の東京に戻って、山内が事件が発覚して逃走するまでが描かれる。そしてもう一回時間が戻る。13か月前、原田智の視点となり、楓の母、彼の妻がALSになって日に日に人間性を喪失していく介護の様子が描かれる。なんとその時点で智は山内と面識を持ち、更には嘱託殺人を依頼していた。その後も関係は続いて、山内が殺した人物はみんな智がツイッター上で自殺志願者を集めていたことが分かる。そう、本作のテーマはかなり扱いづらい題材である「命の価値」や「安楽死」みたいなものを扱っている。こういう重いテーマかつ、答えの出ない問いを扱うことはメジャーだとすっかり失敗している印象で、まあその筆頭は「ドクター・デスの遺産」でしょう。

 その辺と比較してみると、殺人鬼の目的が安楽死の実施から、人間なんて価値がないにどんどん進んでいっちゃって、シンプルサイコキラーにしていることで、問題提起はしつつ、ジャンル的な面白さを担保した感じに見えます。とはいえ、はっきり「座間9人殺害事件」が元ネタ、と言っていいでしょうし、言動的にはかなり「相模原障害者施設殺傷事件」の影響も感じます。すっごいバカバカしいエロネタもあるし、若干の園子温感もありますね。話を戻すと、うん、そういう殺人鬼が相手なんだけど、そこと楓は追いかけっこだけして、直接的に手を下すのは智、でも智は金が目当てなのか、殺人の快楽に目覚めてしまったのか(個人的にはベルトを買う描写で後者に感じた)、山内のアカウントをそのまま継続して使ってしまう。こうすることで、殺人という行為自体を悪としながらも、死にたい人を殺すこと、のとこまでは触らずに、智と楓の親子の物語にしてみせた、っていう感じ。善悪の話ではないところに落とす感じは、『岬の兄妹』にも通じるかも。ただ、前作と比較すれば、ラストの親子の卓球しながらの会話のラリーで、より親子モノ感が強くなったようにできていたと思います。ここはちょっとした「母なる証明」感もありましたなぁー。