抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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舐めんなよウクライナ「ストールンプリンセス キーウの王女とルスラン」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はウクライナアニメ。っていうかアニメに限らずウクライナの映画自体が初めてかな?と思ったら、昨年東京国際映画祭で見た「クロンダイク」が『世界が引き裂かれる時』というタイトルで一般公開されておりました。いやーもうあれから1年ですか。舐めんなよ1989が好きなのでこのタイトルにしました。アトロク2でも聞きます。

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WATCHA3.0点

Filmarks3.2点

(以下ネタバレ有)

1.舐めてはならぬウクライナ

 さて、本作はまず日本で上映されることになった前段を共有しておくべきでしょう。っていうか、そこだけでドキュメンタリー映画になりそうなレベルのお話。もともと映画会社に勤務されていた方が、ロシアによるウクライナ侵攻を機に日本公開を希望。そのまま退職して配給会社を立ち上げてほぼ全財産を投じて配給権を獲得、クラウドファンディングで吹き替え版の製作と上映規模拡大を目指したものでした。その試みに賛同して私も非常に微力ながら参加させていただきました。いざエンドロールみるとここにクレジットされるぐらいお金出しても良かったな、なんて思いつつ。で、クラウドファンディング加入者のオープンチャットみたいなのとかを見ていても非常に忙しくなんとか公開に漕ぎつけた感じはありましたが、その努力が実を結んだんでしょう、公開規模も海外アニメとしてはその辺のヨーロッパアニメとかより多いし、配給に共同で角川も参加してくれました。NON STYLEさんとか別所哲也さんのような芸能人吹替もキャスティングできているし、主演を務めたINIの方もとても良くやっていたように思えます。最初起用が決まった時は固定ファン狙いかしら、と思って諦めていて申し訳ないな、って思います。

 作品自体はウクライナ侵攻の前に製作されているものであり、なにかそこにメッセージを投じるタイプではなく純粋なエンタメアニメですね。身分制度の固定された国で役者にしかなれない役者の子がお姫様と恋をするが、お姫様が悪の魔法使いに攫われてしまう。彼女を助けるために冒険の旅に出るっていうファンタジーで、結構分かりやすい感じ。劇中でも引用されているロミジュリ的な感覚もあるようで、王道でしょう。アニメーションのルックはディズニーとか、アメリカのアニメーションを意識しているようにも思えますし、どこかシュレックっぽいアニメーションであるようにも思えます。そういう意味では大きな驚きはないんですが、大きな驚きのないクオリティのアニメーションをウクライナで作っているという事実があまりにも大きな驚きですね。かつての勇者のシーンだけちょっと粗くなったのは気になりましたが、それ以外はしっかりやっていたし、ドラゴンとなった悪の魔法使いの背に乗っている時など、一部一人称視点で描かれたりと、アニメーション制作をしているとは聞いていない国だと思うと非常にチャレンジングなことをしていたとは思います。

 ストーリー的には、この作品だけでダメとは言えないけども褒めるラインではないかなぁっていう感じ。王女としての冒険の無い退屈な日々から脱出したいところから城下で運命の恋人に出会う、っていう流れはアナ雪なんですが、本作はそこからなんやかんや結局囚われの姫のまま。城内では奮闘しているあたり、囚われのままではダメだと思っているようではあるんですが、結果的に「この城でルスランが助けに来るのを待つわ」ではやっぱり物足りない。また、身分が固定されている状態からの解放を謳う序盤っていうのは最早現代エンタメでは常套句ですが、猫の敵は猫の弱点を突かれるし、蛙になってしまうことが悪いことのようにも描かれてしまっていて、やっぱそこはもうちょっと工夫が欲しいよねって思います。『バッドガイズ』でしたっけ、動物としての本能の話になってて勿体ないなーとか言ってたの。ただ、ここはウクライナの社会・文化の状況とか、これまでの縦軸でどのように描かれてきたのかが分からないとどうしようもないよなって。もしかしたらこの作品がウクライナのエンタメの歴史からしたら大転換点なのかもしれないし、っていう。

  あとは、こういうファンタジー系、今年はアニメーションだと『長靴をはいた猫と9つの命』という傑作があり、実写でも非常に小気味いい『ダンジョンズ&ドラゴンズ/アウトローたちの誇り』という作品も非常に巧みにしていました。っていうか、この映画の旅路のぶっつけ感は結構ダンジョンズ&ドラゴンズは参考にされていると思います。勿論、TRPGの、ですよ。

 まあ取り敢えず、まだまだ続くウクライナの戦火に対してどこか終わったことのように関心を失ってしまっているのなら、こういうきっかけでまた頭の引き出しから引っ張り出してきてほしいなっていうきっかけになればと思います。ということでちんたらせずに特例の土曜日開催となりました。今のうちに是非。