抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

一寸の貝にも五分の魂「マルセル 靴をはいた小さな貝」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は昨年のアメリカのインディーズ系のアニメアワードをそうさらいしていった作品になります。ちなみに私は細かすぎて…を見ているので、このタイトルを読むと問答無用で頭の中のエハラマサヒロがcv武田鉄矢でマルセル、と言ってきます。

Marcel the Shell With Shoes On: Things About Me (English Edition)

WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

(以下ネタバレあり)

1.かわいいいきもの

 基本的にはですね、マルセルがカワイイです。本当に、これだけでもういいだろ、と思う程度には可愛いです。青年ディーンが泊まりに来たAirbnbにいたかわいい貝の生き物を題材にしたドキュメンタリーを撮った、という体なので基本実写、実景なんだけどマルセルとその家族はストップモーションのアニメーションになっていて、かつマルセルへのインタビューの聞き手としてディーンが存在するので彼自体はそんなに映ることもない、という少し特殊なタイプのアニメーション。ヌルヌル動くというより、結構コマ撮り感はあるんですけど、ベッドがブレッドだ、みたいなギャグを言っている時は犬がとびかかってきたりと、単にストップモーションなんじゃないよ、っていう凄さは隠し持っている感覚。受賞がデルトロのピノッキオで対抗がこれだった、っていうのはストップモーションが評価された1年だったんだな、と改めて振り返れますね。

 あと、地味に好きだったということで記録に残しておきたいのは蜘蛛ですね。モルカーみたいな感じの質感でオレンジ色で可愛かったです。何カットか映しているので是非。

 家の中にからくりを巡らせておばあちゃんと2人(?単位分からん)で暮らせるようにしていたのも可愛いんですが、圧巻は家族全員と再会してから。スーツケースで離別とかいうから、そんな規模感を想定していなかったっていう自分の失態もあるんですけども、全員集合した時のわちゃわちゃはなんかもうカワイイどころの騒ぎでは無かったですね。

2.現代メディア批評

 じゃあね、可愛いだけの映画なんか、と。A24がそんな映画に金を出して配給しますか、と。この映画で出てくるマルセルっていうのは何の象徴なんだろう、っていうことを当然考えるんですね。で、これが難しい。カップルの喧嘩=マルセルたちにとっては避難が必要な緊急事態によって家族が引き裂かれた話と考えれば、戦争や災害による難民っていう話にも見えるんですが、そんなにしっくりこなかった。むしろマルセルたちは保護される対象としての存在を嫌がり、主体性をどんどん行使し、むしろインタビュイーであるディーンの方を癒していくような存在。

 とすれば、考えたいのはこの作品の製作経緯と媒体。もともとはYoutubeの短編で作られたものが着目されて、その上で長編化された、という流れは作品中のディーンのマルセルへのインタビュー動画が突如バズっていった道行きと重なって感じる。突如のバズリは、マルセルの家族を探したい思いとは裏腹に、おばあちゃんを傷つけることになったり、彼をキャラクター消費で終わらせてしまうようなバズ、現代SNSへの批評性があるように思える。その上で、短編動画を映画として公開したように、ある種の商業性の乗っかったメディアに乗せることの意義として、60ミニッツというテレビ番組によってマルセルは家族と再会できる。無論、テレビを含めたそういったマスメディアに対して、SNS側がクソだからと相対評価でプラスになっていっても絶対評価ではマイナスでは?という視点は必要だが、少なくとも本作ではしっかり名乗って、しっかり対話して、信用を築いたうえでテレビは契約をしっかり履行した。信頼関係があってこそメディアの役割が果たせる、というのはディーンとマルセルの間にも鏡合わせになっているし、この時代にメディアが何を出来るのか、あるいは個人がメディアとして社会に接続する上で何をもっと考えてほしいのか、そういうことを描いた作品だったのではなかろうか。