抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

最高の創作は初期衝動から始まる「音楽」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 やっと溜まっていた1月公開作品が減ってきました。今回は、九龍ジョーさんや岡村靖幸さん、スカートの澤部渡さん、というようにTBSラジオ「アフター6ジャンクション」人脈が多数関連している必見のアニメ映画「音楽」の感想になります。f:id:tea_rwB:20200205232723j:image

WATCHA4.0点

Filmarks4.1点

(以下ネタバレ有り)

 1.ロトスコープで描く不思議感覚アニメーション

 まあ何を言っても目を引くのは非常に特徴的なキャラデザ。大橋裕之さんの原作漫画を知らないもので、ポスターの段階でびっくりするぐらい魅力を感じなかったのですが、この描線なのにびっくりするぐらいスムースに動くアニメーション。

 これは実際に人間を動かして模写する(という理解でいいのかしら?)ロトスコープという手法を用いたからで、本作に限って言えばこの試みは成功しているといえるのではないでしょうか。3DCGとかでたまに感じる、いわゆる不気味の谷現象のようなところまでいかないリアルさで、かえって良かったと思います。作品自体も成熟した音楽や人間を描いていないからこそ、完璧とはいえない作画具合がまた響く。

 そして終盤、いよいよの演奏シーンでのデザインタッチの変化や、大場たちに追いかけられて以降の回り込んでいくカメラワークは非常に軽快でとっても楽しい。

 途中の研二の会話がやけにスローモーだったりするので、いざって時のスピード感が逆に際立つし、おそらくこれはドラムとベースというリズムを構成する楽器で音楽を聴かされているからこそ生きたんだと思います。最初はベース×ベース×ドラムだから主旋律が無い。だからか、どことなく会話にもメイン3人のハーモニーを感じない。でも、研二が主体性を発揮した瞬間からアニメーションの動きにも豊かさが増し、音楽的にもリコーダーで主旋律が生まれて、3人の、いや6人の見事なハーモニーになる。絵的、音楽的にちゃんとピークがフェスに来てて、そういうところが大好きでした。f:id:tea_rwB:20200205232734j:image

2.思いつき?そっから始まるクリエイティブ

 本作における研二・朝倉・太田はほんとに思いつきでバンドを始め、音楽に必要なモノも、楽器の扱い方も習熟せずに、しかしそれでも自画自賛するだけの演奏をすることに成功しています。それまで頑張ってきただろう音楽マニアの古美術メンバーからすると、あまりにも残酷にも感じます。

 でも、それでもいいと思うのです。どれだけやってきたか、は間違いなくある程度は重要です。でも、それを恐れて踏み出せないよりは、下手でもいいから始める。そしていいものはいいと認める。それさえ出来るなら、始めたもん勝ちですよ。

 例え思い付きだろうと、傑作は生まれてくるはずだし、そもそもそういう軽い気持ち、初期衝動があれば人間無敵です。構わず走り出せたらサイコーじゃないですか。そこが本物だったから、古美術メンバーもちゃんと心を開いてくれたわけです。

 勿論、このメッセージは音楽活動だけに限りません!あらゆる創作活動に通じます。ブログを創作活動と称するのはちょっと気が引けますが、ブロガーの端くれとして拙くていいから、と初期衝動のままに開設したブログが開始即1年休んで、そっからは毎週のように更新できている訳ですよ。だからみんなブログ始めようよ!?

3.個人的な意地

 この映画が素晴らしい作品なのは否定しようがありません。

 ただですね、個人的なイズムとして相容れない部分がありまして。面倒くさい主張ではあるのですが、本作の研二たちは不良じゃなくね?と。本質的には関係ないところです。どんな人にも創作の可能性が開かれていることを指し示す為に、音楽と対局にいそうな設定なのはわかるんです。

 でもですよ。殴り込みかける先の高校への道がわからないときに道沿いのボクシングジムに道を聞きに行く、その発想が出ている時点でどうも良い人さが拭えない。学校に出席しているような中途半端なヤツを不良として認められないんですよね、個人的に。これ、「ブレックファスト・クラブ」にも思っていることですけど。ただ私の定義だと、完全な違法行為を行うアウトローか聖人君子しか存在しなくなる多様性is deadな世界になっちゃうんですけどね…。

 ついでにもう一個。割と漫画やアニメの実写化で文句言っちゃう理由の一つにコスプレにしか見えない、年齢が無茶があるっていうのがあるじゃないですか。実際、「氷菓」の広瀬アリスさんは千反田に見えない!と文句を言った記憶があります。それで言えば、アニメなら今作のような明らかに高校生離れしたビジュアルをセーフにしていいのか、という問いを感じまして。流石に今回の登場人物はみんな高校生に見えない。古美術の面々もビートルズっていうより阿佐ヶ谷姉妹にしか見えないし。うーん、コメディだからセーフかもしれないし、そうじゃないかもしれない。しばらくは抱える問いになりそうです。ただ、確実に痛感したのはいわゆる"萌え"の文脈じゃなくても、多少のイケメンや美少女は画面を引っ張っていく力があるんだなぁということですね。

 

 最後に、本作を鑑賞するかどうか、非常に悩んで決断した、ということは記録として残しておきたいと思います。岩井澤監督のこの映画への熱意は称賛するべきですし、映画に罪は全く無いです。問題は、プロデューサーを務めた松江哲明さんに関する問題。松江さんが何らかのトラブルを起こしていて、それを放置していたのは、何かの映画にコメントを出した時にTwitterで言及されている方がいたのでなんとなく覚えています。

 そこから、昨年12月に問題が再燃し、問題の詳細を改めて知る運びになりました。このまま松江さんに対して無条件でお金を払っていいのか、という疑問が浮かび、一応保留にしていたら九州に向かうことになりまして。その後、年明けに一応松江さんから詳細なnoteが出ていました。その内容への個人的評価はともかく、応答があったということを持って見に行くことにしたわけですが、こういうことが無くなるといいな、と強く願います。本作でも創作に暴力は伴いませんでした。必要以上に誰かを傷つける表現が無くなるといいですね…。