抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

境界を捉える「グランツーリスモ」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はブロムカンプ新作。Filmarksの試写なので公開日前にブログの公開となることをお許しを。ネタバレのとこまでのバッファもとってますんで。

 今では当たり前のように週末に楽しみにしているとはいえ、F1を見るようになった年なので、『フォードvsフェラーリ』の時よりカーレース自体への楽しみや知識は増えていたので楽しい。

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WATCHA4.5点

Filmarks4.6点

(以下ネタバレ有)

1.前置き

 さてさて、今回の作品の監督ニール・ブロムカンプは私の大好きな映画監督でございます。あなたの好きな映画監督は?と問われば、アレックス・ガーランドとニール・ブロムカンプの名前を挙げるでしょう。まああとはマシュー・ハイネマンかな?許されるならパオロ・ジェノヴェーゼも。なんかぐだぐだ付け足してしまったのでそんなに好きじゃなさそうな空気を感じているかもしれませんが、いやいや本当に好きなんです。っていうことで、未体験ゾーン送りにされた前作『デモニック』だってちゃーんと劇場にまで見に行っていますからね、えっへん。

 とはいえですよ、SF畑で映像の新開発を続けてきたブロムカンプがカーレース映画の監督って、エイリアン5だのロボコップ新作だのがどんどん流れて仕事なくなって切羽詰まったか?と言われても仕方ないというか、正直そうなんだとも思います。実際『第10地区』も考えているようだし。彼のようなオリジナルでしかもSFを扱う作家には非常に厳しいのが現代。ノーランですら大変そうですからね。重ねて、私は自動車免許を持っていないどころか、鉄塊が高速で動くのは危ない論者だったのが正直なところ。この映画に対する期待値もそこまで高くないというか、ブロムカンプじゃなかったら見に行かないレベル。

 ところがどっこいですね、そういう映画に限って面白くて映画館で観なかったら公開しそうな作品なんだから面白いもんですね。さて、劇場公開前だから長めに前置き書きましたよ?もういいね?

2.境界

 カーレースゲームの実写映画ではあるんですが、本作は例えば『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』のようなゲーム世界をそのまま再現するタイプではなく、カーレースゲームで最も強かった選手を実際のカーレースに起用してしまおうっていう嘘みたいな実話の映画化。ってことで、そもそも映画的に弱いかも?ってとこは「実話です」の押し売りで誤魔化せるっていうのも強い。

 主人公のヤンはウェールズのサッカー一家の息子だけど弟と違ってサッカーしないからお父さんにやんや言われている。そんな彼が熱中しているグランツーリスモで、彼はレーサーになるっていう夢をかなえるっていう展開はGTアカデミーに集った個性的な面々たちを含めて、変わり者扱いされた人間が世界を拡げるという普遍の話であり、デヴィッド・ハーパーが演じたチーフエンジニアにとっては負け犬たちのワンスアゲインものでもあるし、そしてシンプルなスポコンものでもあるし、当然変わり者扱いしてきた家族との和解・親子映画でもある。クライマックスのル・マン24時間レースでのGTアカデミーメンバー結集とか、もう昨日の敵が今日の友だしそりゃ燃えるし、お父さんとの抱擁は普通に泣いてしまいます。

 でも、それじゃあ普通に良い映画なんですよ。フォードvsフェラーリで話が足りるんですよ。そこにどうブロムカンプが自分の色を足していくのか。そこで彼のフィルモグラフィというか、これまでやってきたことが生きる訳です。ブロムカンプは終始変質する自己と境界の映像化っていうのを繰り返しやってきた印象。NetflixYoutubeで公開されている彼の設立したOATS STUDIOの短編集の『Adom3』でも『チャッピー』とは逆の立場からロボットと人間の境界を探そうとしだしているし、『融合体』では『第9地区』とはまた違う人間とクリーチャーの間を探索し、前作『デモニック』は仮想現実と現実の境目をプレイステーション的な映像で表現する試みをしていました。

 そういった点で、ゲームでレースを楽しんでいた時と実際のレースコースで車を走らせることとの境界上を行き来する存在であるヤンっていうのは、ブロムカンプにぴったりの存在というか、この話を映像化するにはブロムカンプ以外いなかったんではないかとすら今なら思える納得度。ゲームセンターでGTアカデミー入学をかけたレースでゲーセンをそのままレースコースにしていくワンダー(履き捨てた靴が映ってて好き)を見せてくれて感謝、でもどんどん現実のレースにコミットしていってあの表現は出て来ないかなぁ、って思ったときのル・マンでの車分解シークエンスでガッツポーズですよ、やったぜ!これですよ、このちょっとゲームっぽい中で行き来する現実っていうものの表現をこれまでやってきた訳です。

 『デモニック』の時は戦闘をもっと見たいけど、きっとブロムカンプの主題はそこにはないだろうから仕方ないな、と納得したんですが、これだけカーレースをちゃんと描いてくれてたらやっぱ見せ場って大事だなって確認できますね。今回でいっぱい本物の車も使ったし、全く捻らない王道のストーリーをやった感覚もつかんだとは思うんです。きっとソニーからこの仕事を受けた時のブロムカンプだって最初はあのピットスタッフのおっさんみたいな雰囲気だったんじゃねって思うんですよ。なんかの企画持ってって断られた上で、でもこれならやってよ、って言われたみたいですし。でもやっぱ最後はワンチーム(引用:TBS日比アナ)なんでオッケーなんですよ!次も面白いの頼むぜ!!

 そうそう、映画見終わってから調べてたら発見したんですけどブロムカンプはBMWのCMでショートフィルム撮ってたんですね。映画見て、これ書いて、もう時間が無いので未見です、貼るだけ貼っておきます!