抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

夏フェス「シン・ちむどんどん」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は劇場数が前作と比較して激減して見れないかも!と思っていたら1週間前の先行上映イベントの配信チケットが買えたので、そういうルートで鑑賞しました。映画館での上映が始まりましたが、多分まだ買えるので是非。

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loft-prj.zaiko.io

WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

(以下ネタバレ有)

1.ドキュメンタリー映画としての強度

 早くも続編となりました、ヒルカラナンデスの劇場版。今度の舞台は沖縄。2022年、昨年の県知事選挙の模様に密着したものになります。前作の感想はコチラ。上半期第10位に入れてました。

tea-rwb.hatenablog.com

 さて、前作の面白かった部分を改めて確認していくと、「選挙はフェスだ」の概念の元に、政治を面白がろうよ、っていうテイスト。ラッパーのダースレイダーと時事芸人プチ鹿島という窓口を通して、彼らの視点で政治を面白がって関心を高めていこうっていう取り組みがシンプルにバラエティ番組的で面白い。その上で、そうやって面白がっていた当人たちですら予期できなかった安倍元首相暗殺事件のその日を捉えていたっていう、いわゆる撮れてしまった、撮れちゃった映像としての強度がとてつもない後半で記録性と自己言及性を見事に兼ね備えた作品になったということでした。

 で、これが今回も生きているかというとやっぱ難しいなぁ、というのが正直なところ。構成は前作と同様選挙パートが前半にあり、後半は不意の出来事からのパートということにはなっているんだが、本当に不意だった前作と比べると、そもそも予定していたところを強化しただけの座り込み取材っていう印象は否めず、そこの面白さはちょっと落ちたかな、と。ただもうこれは撮れちゃうことを期待してはいけないというか、そこがドキュメンタリーだもんなっていう。

 計算できないことを入れ込む後半と比較すると、前半の選挙パートはいかにダースさんと鹿島さんが沖縄の知事選挙を真面目に面白がれるか、っていうところが焦点になると思います。ただ、ここも前作には劣ったかな、と。それは何よりも候補者の人数が少ないっていうのは大きい。現職の玉城デニー候補、自民・公明推薦の佐喜眞淳候補、そして第3極的に出てきていた下地幹郎候補。小選挙区での戦いを追った前回ではこの対立候補の枠組みが無限に組める状況だったことで、香川1区だけじゃない、みたいな作り方が出来たのだが、流石に3人では少し物足りないように思える。重ねて、恐らくはこの2人に最も親和性の高い玉城候補との接触は殆ど無く、自民系候補は当然のように(いやその割には結構面白い人物だったが)接触は増えず、結局下地候補が自転車で漕ぐのを眺めるばかりに。候補とのつばぜり合いが少なく、結果的にも8時の開票と同時に当確のでる選挙だったことも緊張感の無さに繋がったかもしれません。全候補が好きな番組や俳優に関連して名前を挙げたNHK朝の連続テレビ小説「ちむどんどん」について尋ねる、っていう固定の視点を持って各候補にぶつけるというアイデアは面白く、それぞれの候補の魅力が伝わってくるものだったが、これも二の矢が欲しかったか。

 実はドキュメンタリー映画として一番緊張する瞬間は、結局選挙ではなく、基地の工事現場の前でのダースさんのラップ披露だったりする。といっても、彼の発するフレーズが排除されそうでヒヤヒヤするというよりも、多分ラッパー、ラップ文化になじみの無さそうな方々の前で披露する無茶ぶりっぽさ、そしてそこに一瞬共鳴しようと試みる鳴子、結局その後は座り込みチームの歌になっていくという、まさかのここでの鍔迫り合いはちょっと緊張するものがあった。

2.沖縄映画として

 ここまでドキュメンタリー映画、特にここ数年のトレンド的な政治を題材にした面白すぎるドキュメンタリー映画の系譜で言えば少し物足りないことを評してみたが、しかしこの映画内で語られた沖縄の現地の人たちの声、というものの価値を貶めるものではまったくない、ということは絶対に言っておかなくてはならない。基本的には知事選でもテーマとなった普天間の返還と辺野古への移設、そして辺野古工事の場での座り込みが中心ではあったが、そこで語られているのは結局、日本という国が、政府が、行政が、あるいはヤマトンチューと呼ばれる本土の人間が、そしてアメリカが。沖縄っていう土地をどのように捉え、あるいは捉えてすらいないのかを物語ったものであった。選挙という民主主義の根底を支える出来事を取材する過程で、住民投票や各選挙で表出された沖縄の民意を無視してきていることは、公人が選挙活動中に暗殺されたことに匹敵する民主主義の危機ではないか?あるいはもう放棄しているのではないか?そう問いかけているようである。割と考えているつもりではあるが、いやいやもっとちゃんと考えてもっとちゃんとやらなくては。沖縄に実地に取材に行った友人のことを思い出しながら。