抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

秋はドキュメンタリー「コレクティブ/国家の嘘」「ザ・モール」「これは君の闘争だ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 さあ、今回はドキュメンタリー映画特集。ルーマニア北朝鮮、ブラジル。3つの国に迫った作品ですが、どれもこれも映し出される現実は、目を疑うものばかりです。ブラジル→ルーマニアでしりとりが出来るので、アンゴラとかアンドラとか、アゼルバイジャンのドキュメンタリーだったらしりとりが完璧でしたね。

 

1.「コレクティブ国家の嘘」

映画チラシ『コレクティブ 国家の嘘』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚 

WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

 本作はルーマニアで起きたクラブハウスでの火災から話が始まる。この火災によって、多くの方が亡くなり、避難経路が一つしかないことなどが問題になったよう。日本で言えば、歌舞伎町ビル火災のような形で世論が盛り上がり国も改善を約束した、なんてことが冒頭で示されます。なんと、その火災を内部で撮った映像なんかも出てくるし、なかなかにショッキングではございます。

 んで、ここで問題が。なんと、火事で亡くならずに入院していた人たちが後に亡くなり、その死者数が火事での死者を超える事態に。ルーマニアのスポーツ新聞である「ガゼッタ・スポトゥリロル」の記者トロンタンを中心にこれは如何に?と調査を始めるところを密着したドキュメンタリー映画になります。

 まず、ドキュメンタリー映画としては、1番どうなるか分からないタイプの撮れちゃった系映画である、ということを強く申しあげておきたい。次から次へと分かっていく事態を、振り返るのではなく、ちゃんと居合わせている形で撮影、ナレーションとかインタビューは全くないので、想田監督の観察映画に極めて近い。作っている監督自身もどうなっちゃうのコレ、と思ってただろうなっていう凄まじさ。

 そういう意味では、記者が一つの真実を目指していく、『大統領の陰謀』型ドキュメンタリーでもありますね。ちょっと調べたらリアル『スポットライト』なんて話題も出ていました。のちに映画化、ではなく真っ只中から密着してドキュメンタリーにできてる、っていうのが凄い訳ですが。

 何が凄まじかったか、と言ったら、起きていた不正の凄さ。病院で入院していて亡くなった死者の死因は感染症で、院内感染。どうやら特定の企業が納入している消毒薬の殺菌成分が薄められて納入されており、病院で消毒されたメスに緑膿菌が住んでいるのよ、なんてセリフ。手術即ち感染症、みたいなおっそろしい事態。単なる景品表示法みたいな問題じゃない訳ですよね、医療においてそれが起きるっていうのは。しかも、国はそれを隠ぺいに走り、トロンタン記者の質問は煙に巻くし、不正な金の流れがポンポン出てくるし、病院の理事長レベルの人たちはみんなグルっぽいし、そもそも国は不正を把握していたのに放置していたっぽいし、と地獄のてんこ盛り。スクープの裏取りが出来たトロンタンがガッツポーズをあげるシーンこそあるものの、基本的には記者たちの顔は深刻。「あれ、この国ヤバくね」「この国に住んでてええのか」っていう気持ちをダイレクトに感じる。

 後半に入るともう一人の主人公、交代して新任となった保健大臣が登場。特に説明も無いので、受け入れてしまいますが、彼の公務に結構引っ付いて、普通に執務室での会話とかをバンバン映していて、就任会見で言っていた「まず嘘を無くす」を徹底している人物であることが分かります。ああ、この国もまだ捨てたもんじゃない。でも、彼は思いがけない障壁にいくつもぶつかる。「今火事が起きたら患者をどこに?」と問われて「海外だ」と答えれば「医療を海外に売り飛ばそうとしている」なんて批判を受ける。なんでこんなことが起きたんだ、誰が決めた基準なんだ?

 捨てたもんじゃない、と思っていたのに。映画の終盤で訪れる総選挙。なんというか、それはそれは悲惨な結果。若者の投票率は上がらず、殺人者になりたくないから辞職するような企業と国家の大腐敗を前にも、まさかの腐敗をしていた側の交代前の勢力が選挙で勝利。ありえない、と思ってしまいます。

 この落胆は、今んとこ日本人は絶対に共有できると思います。国家が統計の数字を弄っていた、その1点だけにおいて本来は政府転覆級の大スキャンダル。しかし、それ級が何度か続いてもちっとも政府が揺るがず、政治への関心も低いと言わざるを得ないのが現状。市民が蹂躙されている(と私は感じていますが)中で、この作品を見て選挙に行く人が増えればいいと思います。

 なお、以下はこの映画に関するTBSラジオ「Session」の特集です。特にルーマニアのメディア情勢の話ははっきり言って衝撃というか。映画の結末に納得してしまった面があります。

荻上チキ・Session 特集「映画『コレクティブ 国家の嘘』が公開~映画を通して、ルーマニア、民主主義、メディアを考える【ゲスト:六鹿茂夫さん】 https://nhsw9.app.goo.gl/BYLS #ラジオクラウド #TBSラジオ

2.「ザ・モール」

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WATCHA3.0点

Filmarks3.0点

1.信じられない撮影の数々

 えー、とにかくこの映画の面白さを担保しているのは、なんでそれが映せるのよ?という場面の数々。だって、デンマークのただの元料理人で福祉年金で暮らしている青年ウルリクが、デンマークのどっちかというと、共産趣味的な集まりに参加したところから、北朝鮮本国にどんどん入っていく。つい最近、「ザ・クーリエ」でどんどんソ連の中に入っていくスパイをカンバーバッチが演じていましたが、こっちはドキュメンタリー。しかも再現VTRではないのだ。プロモーション用の映像だ、とか、スペインにいる朝鮮親善協会の会長アレハンドロに伝える為、とか言ってバンバン隠れてもしないでカメラを回している。平壌の郊外に連れていかれたウルリクと武器商人(を演じた元軍人)ジェームズが地下の秘密クラブっぽいところで、北朝鮮高官との武器密輸契約の締結の瞬間だって普通に撮ってる。うっそでしょ、と。そこから、原資なんか無いのにウガンダビクトリア湖に浮かぶ島にホテルを建設して、その地下に覚せい剤と武器の秘密工場を作って北朝鮮と密輸しようとする計画が動き出し、ホントにウガンダにまで出向いてるし、なんかそこにヨルダンの石油密輸業者も絡んでくるし、誰も知らない(と劇中で言及はされている)北朝鮮の武器リスト及びその価格表のコピーとかまで入手しちゃってる。流石に途中からは警戒して隠しカメラ・隠しマイクにしていますが、これらの人物の会話が明瞭に録音されているどころか、完璧に顔・動作も映している。衝撃に近いです。

2.これを認めていいのか

 この滅茶苦茶面白い作品を、作品とか映画とか、そういう名前をつけてしまっていいのだろうか、いや、絶対にダメだ、と言わざるを得ない。本作の監督はマッツ・ブリューガー。前作『誰がハマーショルドを殺したか』でも、結構ドキュメンタリーとフィクションのギリギリをいってはいたんですが、本作では明確に一線を越えている。そも、彼は以前に『レッド・チャペル』という映画を撮っており、既に北朝鮮から出禁を食らっている状態。ところが、その映画を見ていたウルリクが勝手に潜入しちゃうし、監督はなんかあったら言ってね、金も出さないよ、みたいな返答で、おいおい、と。事態がどんどん進行して、ウルリクがKFAのデンマーク支部長みたいになった辺りで絶対にストップをかけるべきなのに、架空の武器商人ジェームズを作り出してぐいぐい進んでいってしまう。北朝鮮という、正直言って危険極まりない相手に対して、個人でスパイ活動を行っていた訳で、そこに責任は取れないですよ。それを創作とか、映画という形で進めていくっていうのは、やっぱりダメだと思います。しかも、劇中では、ジェームズとウルリクから、元MI5の工作員だった人物に聞き取りを任せる形で、自身は顔を見せない形で進行していって、ネタバラシの段になってようやく監督の顔が見える。おいしいところだけ持って行った感じが否めず、いやーどうなんでしょうと。

3.「これは君の闘争だ」

WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

 ブラジルの学生たちが、学校の統廃合に反対して学校を占拠したり、道路を占拠したりした模様に密着しているドキュメンタリー。92もの学校が廃止され、転校を余儀なくされる生徒の人数もものすごい数に上ると。これだけ聞くとただの統廃合とか、普通の校区再編ぐらいに感じるんですが、ブラジルの教育事情的にそうではない、と。統廃合されてしまうのは、貧困層が多く通う公立校であって、富裕層・白人層の通う私立とは教育の質が違う、ということのよう。そして、廃校された跡地には、刑務所を建てると。アメリカの人種問題と同様に、ブラジルでも逮捕されるのは貧困層・黒人層が多い、という構造による差別が温存されちゃっている現状で、教育を奪って収監施設を作る、ということはそれを加速させる流れ、ということ。

 そこに立ち上がったのが、その学校に通う学生たち。自身らから教育を奪わないことを求めて、この活動は始まり、ブラジル全土に拡散していく。その模様を3人の学生が振り返る視点で、語り継ぐ。その様は、マイクを順繰りに手渡していくマイクリレーのようで、よどみなく続く語りは、ビートを刻む。語りそれ自体が音楽。

 その音楽が止まるのが1時間ほど経過してから。そこで繰り広げられる、警察との衝突は、やはり画の持つ力を感じます。香港の雨傘運動を描いた映画『乱世備忘』を思い出す、というかそのまま。世界中で、怒れる民衆に対して、体制はそうするしかないのか。選挙の前のタイミングの日本でこれを見ると色々思うところがございます。どことは言わないけどさ、無駄とか言って公共や教育にケチってるとこが政権取るときっとそうなるよ

 でも、何よりこの映画がしんどいな、と思ってしまうのは、これがボアソナーロ政権の誕生前だ、ということ。ルセフ政権をルラ元大統領の汚職とかで失権させて、その後にやってきた大統領は、ルセフ大統領が彼らの運動を受けて重視した労働者層や貧困層への政策を社会主義的と揶揄して、完全に再分配を拒否。社会運動は根絶する、みたいなこと言っている。ルセフ大統領からボアソナーロ大統領への交代は、ブラジルワールドカップでブラジルがドイツにバカ負けしたことも後押ししてる、という嘘みたいな話もありますし、ブラジルの政治学者の中にはクーデターだったと言う方もいます。それはそれで、2時間の映画になる内容です。真裏の国とは言え、知らないこととせずにアンテナを張り続けておきたいものです。