抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

生まれただけなのに「ある男」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 日本負けた!悔しい!察せ!4時だ!

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WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

(以下ネタバレ有)

 

1.そいつは誰だミステリ

 誰だ、誰だ、誰だ~!という訳で、窪田正孝の正体は誰だったのか!?っていうのがこの映画のメインの探求される出来事になります。ただ、この起こりを素直に見せない。まずは横浜から宮崎に帰ってきた安藤サクラ母子が窪田正孝と出会い、少しづつ距離を近づけ、そして結婚し、死ぬまでを結構な時間かけて丁寧に丁寧に描いていく。妻夫木聡演じる弁護士の城戸が登場するまでだいーぶかかりましたもんね。でも、ここを丁重に扱っていったことで、窪田正孝が全く悪い人ではないんだろうな、っていうある種の安心感を観客に与えて、それはつまり逆にそんなにいい人が何かの後ろ暗いことがあったのでは??と思わせるつくりで、話を聞くだけになりがちな人探しでの緊張感の持続に一役買っています。

2.生きた証と生きる意味

 一見、この作品は一緒に過ごした人の正体は誰であろうと過ごした時間や想いそれ自体が消えてしまう訳じゃないよっていう、愛の物語に見えます。っていうかそういう風に宣伝している節もあります。でも私の受け取りは決してそうではありません。

 原誠は、死刑囚の息子として生きていくことを余儀なくされず、谷口大祐は老舗旅館の次男坊から抜け出せませんでした。そして何より、城戸先生。猛勉強して弁護士となり、人権派と呼ばれ、死刑囚による展覧会という催しを行うなど精力的に活動しても浴びせられる言葉は在日。収監されている柄本明に言われるのはまあ許せても、谷口兄は弟に成りすました人物を死刑囚の息子と切り捨て、舅は君だけは別だといいながら在日ヘイトをふりかざす。それを全部飲み込んで我慢してきたのに、真木よう子は浮気してしまった。浮気を疑ってきておいて浮気してんのかよ。社会において、(社会とは人と人とが相互関係にある状態ですが)生きていくには矢印が常に外に向いていないといけないし、外から向けられた矢印が自分を定義していく。そこに自分がどうあるか、っていうことは関係なくて、自分がどのようにラベリングされていくのか、しかない。そんなクソみたいな社会でそれでも生きていくなら、その外から向けられる矢印をコントロールすることの何が一体いけないんだろう、という問いかけに感じました。名前とか苗字、なんてのもその矢印の一つでしか無いから、息子くんの名字が変わっても…みたいな。あ、戸籍交換を肯定してるっていうよりも、どう見られるかをコントロールしないと生きづらい人がいるよ、っていう趣旨ですよ。もちろん。

 今回の一件を経て妻夫木君、君は一体どうするんだ!このまま終わるなよ!と思って見ていたので、ラストのバーでのくだりに大満足。彼は谷口大祐と入れ替わったんですねぇ。そして冒頭にもつながるあの絵。鏡の中にいるようにも見えるし、自分はただ見られているのだ、っていう話にも見える。あの絵を見るのが妻夫木さんな以上、この映画はあくまで彼の作品であることは間違いないでしょう。