抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

ちりも積もれば罪となる「英雄の証明」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 配給会社シンカさんのキャンペーンに当たって劇場鑑賞券をいただいたので見てきました。そのタイミングで盗作疑惑が出てしまって、多少躊躇はしたんですが。

 という訳で、久しぶりのイラン映画です。余談ですが、金属バットが昨年のM-1の敗者復活で「いらんいらんの、イランイランオイルよ」って言って軽く滑っていたのが大好きです。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

(以下ネタバレ有)

1.前提の理解が追い付かない

 本作、まずはいきなりなんかクセルクセスの墓で作業している人のところに一人の男が近づいてき、階段を上っているところから始まります。高所恐怖症的には、結構怖かったんですが、まあそこで上がって会いに行ったけど、すぐに降りる。あ、終わってみれば、ここで示したのかな?と思いつつ、そういえば『別離』も階段が重要だったな、とか思いつつ。

 で、そこでの会話でどうやらこの男が出所したばかりなのかな?っていうのが分かるんですけど、どうも出所とはニュアンスが違う。で、話が進んでいくとようやく分かるんですけど、どうもこの男、えーとめんどくさいな、ラヒムは借金があって、そのせいで刑務所に入っていると。で、釈放とかとも違う形で、翻訳通り言えば「休暇」を与えられているっていうことらしい。うーん、日本社会と違いすぎる!ただでさえ、家族関係が結構ややこしいので、それを理解するにも時間がかかるのに、そんな特殊な(え、もしかして日本の方が特殊でイランの方が普通なのか?)制度設計の説明がまるでないのは結構飲み込めない。開始30分ぐらいちんぷんかんぷんに近かった気すらしております。途中出てくるチャリティ協会、みたいな人たちのいう事も結構わからんし、彼らの紹介した仕事もなんかそんなにそこにこだわらなきゃいけないの?っていう感じだし、イラン独特の社会が形成されている中で、ハテナが結構多かった印象。まだイラン映画を5本ぐらいしか見ていないので、決してイランのことを詳しいとは言いませんが、その中でもこんな制度の話なかったわ!

 

2.ファルハディお得意からの一歩先

 まあもうやってることは、いつもの(この映画を見る前に『別離』『セールスマン』を見ただけでいつもと断言してしまう)ファルハディですね。大悪人がいない中で、みんなが少しずつの嘘や見栄や小さい悪意を積み重ねていった結果、気づいたらどうしようもないことになってしまっていて、どうしてこうなった…と思ってしまう。でも、振り返ってみるとどこか回避不能な気もしてくる。そういう感じの映画を作る人と認識しました。

 そういう意味では、金貨入りの鞄を返した、という事実に色んな人が絡んで、色んな人がその事実を利用しようとしたり、乗っかっちゃったり、小さい嘘をついたり、ちょっとした父権主義が顔を見せたりで、みんな不幸になっていってしまう。

 ただ、本作がそれまでより少し先に進んだ気はします。最終的に、ラヒムは金を放棄し、名誉を守ってくれ、と選んだことで、少なくとも夫が死刑の親子はなにがしかの助けを得られた可能性がありました(死刑囚なのにお金次第でなんとかなるって今後の生活費ってことだったのだろうか、まさか減刑されないよね?)。また、更に刑務所の偉いさんが吃音賞の息子を動画に録って、名誉回復を企んだものに対しては、父親として最後の一線を踏みとどまり、彼を守る決断がラヒムには出来ました。どんどん事態が悪くなる中でも、やっぱりほんの少しでも正しく生きようとすれば、最悪の最悪はまだ回避できるかもしれない。実直に、ラストにラヒムになんか食い物をくれた出所した人のように。

 っていうこれまでのハルファディの最悪劇から一歩希望を見出した展開は好きめなんですが、その達成に他人のアイデアを使って、みたいなことだと残念よねぇ。