抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

東京国際映画祭報告「コンビニエンスストア」「クロンダイク/世界が引き裂かれる時」「第三次世界大戦」「山女」「アシュカル」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はめでたく閉会した東京国際映画祭で鑑賞した映画の報告。基本的にガラ・セレクションのような後で見れるやんけ!みたいな作品よりも、二度と観れないかもしれない世界各国の映画を見るチャンスと捉えているので、そういった作品のご紹介です。

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コンビニエンスストア

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WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

 モスクワのコンビニ(とは言っても、なんか果物とか売ってるしスーパーとかドラッグストアみたいな規模感)で働くウズベキスタン人女性の話。

 まずはほぼ30分コンビニからカメラが出ない、狭いぞ、というカメラの置き方が非常に巧み。店主にパスポートを取り上げられ、携帯電話も握られるような状態、同僚はレイプされても仕方ないなんてことで、冒頭の結婚式が決して幸せなモノではなかったことがやっと分かってくる。暗く狭い労働の搾取。

 だが、そこからの奪回がメインの物語ではない。ウズベキスタンに逃げることが出来た訳だが、モスクワには子どもを残し、父は死んでいた。ウズベキスタンで働くにしても、やはり搾取の構造は残り、結局は息子を人質にされてる以上、繋がりを断てず、むしろ彼女は別の仲間を引き入れてしまうことになってしまう。国ガチャ、と言われかねない格差、貧困の再生産とその仕組みを見せつつ、じゃあこれって固有の問題ですか?は問われるべき、というか東京国際映画祭でやる意義があるというか。

 日本のコンビニに多言語人材を配し、技能実習生としてやってきたアジアの人材に対して日本は何をやっているのか。うーん。

クロンダイク

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WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

 ウクライナ、ドンバス地方。マレーシア航空機撃墜事件のタイミング。

 ドネツクの田舎に住む夫婦は、妻が臨月を迎えているがそんな中誤射によって家の壁を破壊されてしまう。

 親露派の村人が車を勝手に使い、その場を生き延びる為に夫も親露派のように振る舞うが、心配してキエフからやってきた義弟からは裏切り者と罵られる。家の壁を破ってくる砲弾や遺体や兵士は、国境を跨いでやってくるロシア兵及び傭兵を想起させ、逃げれば良いじゃんなんて言葉を発させない緊張感と長回しの魅力がそこにあった。「敵を全員殺さないと戦争は終わらない」では何故、兵士たちは彼女を放置したのだろう。

 航空機撃墜が起きた後の、アンテナをトルクが修繕している奥で煙が上がっている描写はそれだけで出色である。

第三次世界大戦

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

 映画撮影での設営のその日仕事が流れでエキストラになり、エキストラからヒトラーを演じることになったホームレスの男。監督!その抜擢は流石に無理があるのではないでしょうか!

 だが、ここでひとつ大嘘をかましたことでここからの展開や結末を許容できるように作られている。

 彼の愛したファムファタルは、地獄と破滅の匂いを漂わせながら彼を本物の独裁者へと変えていく。聾者の登場する映画は増えているが、その波はイランにも届いているのか。どんどん必死になり、ヒトラーの立場から学習して感情を発露していく主人公。立場が人を作る。

 果たしてあの女は本当に男を愛していたのか、それとも彼を謀る仕掛けの一つだったのか。出てきた腕輪は、単に地下にいるうちに落としただけで火の中にいたことの証左ではないはず…。どっちにしても、彼女のわがままで踏み外していく様子は完全にファムファタルのそれである。
 歴史は繰り返さないが、韻を踏む。世界史と映画史に韻を踏む作品に。

山女

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WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

 18世紀の東北地方。前作『アイヌモシリ』でもアイヌという伝統と現代社会の間でどっちに針を向けるべきか悩む少年が主人公だったが、本作も村社会の伝統と山での生活という2つの世界を知った少女の物語。普通の作家なら、新しい世界を知ってそれで自己解放でおしまいにしてしまうところだが、福永監督はどっちの世界も知った上で、自分のルーツを、例えそれが悪いものであっても引き受けるっていう形に落ち着くような作品となっていて、それはもしかしたら海外で暮らした監督の日本に対する意識があるのかもしれません。

 とにかくMVPは主演の山田杏奈で、いわゆる排斥される階級といえる死体を扱うような仕事の家庭に生まれて、ここではないどこかに行ってみたいがしかし行けない現実を直視している演技がとても良く、そしてそれと同時にここではないどこかを知っていて無邪気に心配しちゃった泰蔵くんを演じた二ノ宮隆太郎も非常に良かった。二ノ宮監督は、どっちの世界も知っているダメな人で、森山未來が山しか知らない人、そして三浦透子が村社会のダメなところを分かっていて受け入れている役割で、綺麗に分担出来てました。

アシュカル

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WATCHA3.0点

Filmarks3.1点

 チュニジア版CUREと聞いていたのですが、期待以下でした。

 自然発火としか思えない焼死体が見つかり、それが連続する。チュニジアの宗教関係上、自殺っていうのは基本的にはあり得ないし、あと衣服を脱いでいるっていう謎。そこを調べる刑事・女刑事のコンビのバディムービーかと思いきや、ジャスミン革命後の清算が済んでおらず、警察機構に対する監査とかがあって、この女刑事の父親がその担当らしく、なんか警察の連中もそっちに気がいっている。事件を調べたいのか、調べたくないのか良く分からない感じで、もうずーっとうろうろして停滞しているから、発火死体がもうどんどんビシバシ出てくる。100分切っているのにここのあたりが本当に鈍重。映画も停滞してどうするんだ。

 結局のところ、監督は風景を撮りたかったらしく、ミステリーする気がないならこんな事件を題材にするな!と言いたくなるラストで。犯人っぽいやつが出てきたらやっぱり発火して入院。入院先から消えたら、向こうで燃えててそこに向かって裸の男たちが突入していく。ジャスミン革命での焼身自殺の動画を送られたやつらが燃えるっていう仕組みみたいなので、うーん、ジャスミン革命での膿が出し切れていないからやらなきゃ、っていう話なのか、希望の灯に飛び込んでいったってことなのか。考えようと思えばいくらでも考えられるんでしょうが、考える気が起きない。