抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

祭りのあと「東京2020オリンピックSIDE:A」「東京2020オリンピックSIDE:B」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は売れに売れていない河瀨直美監督の東京オリンピック記録映画になります。

 藤井風、どこいった?

1.SIDE:A

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WATCHA3.5点

Filmakrs3.7点

 河瀨直美は実に災難な監督でもある。この映画を撮ることになって、もともとなんとなく右派に嫌われている感じの知識人っぽさはあったのに、左派とかオリンピック反対派からも嫌われ、NHKでの特番での字幕事件や『朝が来る』の撮影現場での出来事など、結構ダメな人なのでは…?っていう雰囲気が漂いつつある。

 だから、この映画に対しても公式の記録映画だし、なんかSIDE:Bとかいう怪しい日本凄い方向に誘導しやすそうな2本目を準備してたりで、完全にうがった見方をしてしまっていたのは事実だ。ましてや試写会には橋本聖子は分かるが、森喜朗が来ていた。どんな顔してくんねん。

 開幕、その不安は的中する。藤井風(だよね?)が歌う君が代が流れ、日本の原風景や桜、子どもたちがスポーツを楽しむさまが流れる。ああ、日本は美しいの方に行ってしまうのか。そして続いて出てくるおじいさんたちの顔顔顔。森喜朗もいた。「地元の市長です」とか言いながら森喜朗に紹介している、っていうああ日本美しいね、っていう。反対デモは非常にやかましく、ブルーインパルスを見上げる国民の顔はどこか嬉しそう。

 その流れで出てきたようやくのスポーツ関係者が山下泰裕なんだけど、この人もなぁ、みたいな雰囲気があるじゃないですか、いや、私にはあるんですよ。で大丈夫かなぁ、と不安げでした。

 ところが、終わってみるとどうでしょう。始まりと終わりに柔道日本代表と女子バスケットボール日本代表で挟む形で紹介されたアスリートたちは、シリア難民の競泳、トライアスロン、イラン難民でモンゴル籍、女子ソフトボール、男女スケートボード、男女サーフィン、女子ハンマー投げ、女子マラソンに女子1500m、男子空手、柔道といった感じで多岐にわたるが、しかし掘り下げられたのは、出産を経験した母としてのアスリートだったり、学生でありながらオリンピアンだったり、アスリートとして優れていてるというというよりも、ライフイベントの中にどうコロナとオリンピックを組み込んでいたのか、という視点。はっきりと女性への連帯を表明し、母となっても競技を続けた人、競技を引退した人、どちらもを称えている。また、男子空手の喜友名選手を扱った際には沖縄の反応をしっかりと取り上げ、日本の中に「沖縄」という場所があり、それが国内でどういう位置づけになっているのか、を明確に世界に向けている映画で見せた。公式記録映画でありながら、明らかに序盤に見せた森喜朗の邪悪さが際立ち、女性たちへの連帯、マイノリティ、今を生きるのが大変な人たちへの賛辞を送っていた。こういうと失礼だが、実に見直したぞ、河瀨直美。

 また、演出的な話で言えば、非常に重要なのは音だ。今回のオリンピックは史上初めての無観客開催で、カメラも何度も無人の観客席を捉えていたが、監督は明確にそれを重視していて、BGMは本当に少なかった。特に競技シーンにおいては、現地の音をとにかく重視していて、それはスポーツの力をある意味で信じている瞬間であり、競技のスポーツ的な面白さの説明を省いたのは、その音と顔ですべて伝わる、と信じていたからかもしれない。やたら顔アップで目だけの人もいたし。実況で入っていたのは「13歳真夏の大冒険」ぐらいでは。それだけ倉田アナが素晴らしかった、ってことでしょう。

 ただね、私個人としましては、2020年になって競技を「どう」撮るかっていうことが期待していたことで、フェンシングの最新技術のやつとか、サーフィンとか、スポーツクライミングとか、自転車競技とか、その辺のカメラの置き方とか、そういうのを期待していたら、まさかの全外しっていう。そこの期待外れはね、ありました。

2.SIDE:B

WATCHA2.5点

Filmarks2.5点

 酷かった。酷かったなぁ。

 相変わらずの顔アップ。そんなに大きくしてどうしたい。そして何?エヴァじゃんっていう文字演出、でもスッカスカ。庵野秀明市川崑東京オリンピックっていうオマージュ、かな?めんどいな。

 時間表示をしたりして煽ったり、全体を通そうとしているけど、別に時間通りに編集してないから意味無いけど??オリンピックまであと何日、の時にバンバン競技の映像流してるじゃねえか。そして前作以上に放り込まれる子どもたち、自然、陽光。自分の声を入れることも容赦していない河瀬直美、あなたそれはやりすぎ。

 驚いたのは、トーマス・バッハの胆力。子どもにスポーツチャンバラでガチになり、広島で資料館で泣く。例えカメラの前であることを分かっているとしても、そう振る舞えるというだけで彼は森喜朗よりも役者だ。記者会見でほくそ笑む佐々木宏よりも。そういう意味では、森会長退任で泣ける丸川珠代が1番ヤバいのかもしれない。橋本聖子には少し同情したくなった。セクハラしたのは忘れないが、ただなんかこの人も凄い星の下に生まれちゃったひとなんだろうな。

 要所要所に好きなエピソードはもちろんある。でも、南スーダンの選手団とか女子3on3とか、競泳とか、桃田とか、アスリートもバンバンでる。おかげでテーマもクソもない。震災からの復興とか、そういうのも入れちゃうともうパンクです。

 結局、札幌での女子マラソンスタート時間を前日に1時間繰り上げという緊急事態をなんとかしてしまったことを映したように、なんとかなってしまった、なんとかできて良かったね、の方向に全部引っ張られちゃう。オリンピック反対派の様子は理知的に語るのは宮本亜門ぐらい。うーんなんだかね。分断が課題と繰り返し語られる中で、分断している反対派にバッハは、医療従事者は、歩み寄ったのにね。っていう分断を作るためにしか使われていない気がする。

 最終的に、河瀬直美にも佐々木宏への萬斎さんのカウンターが突き刺さる。あの会見での萬斎さんの刺すような眼差し。伝統という線で見た時に、自分がその一点にいることの意識があまりにも希薄だ、と。佐々木宏は広告が映画などの芸術に劣っているとは思わない、という誇りを持ってとか抜かしていたが、その広告の部分が映画、もっというと「私」に変わっただけ。オリンピック映画とか、ドキュメンタリー映画の縦の文脈を考えてないんだろうな…

 縦の視点、ということで、なんとこれまでのオリンピック映画全部見ている!!映画評論家松崎健夫さんによる、オリンピック公式映画としてどう見るか、という感想がとても参考になるっていうか、オリンピック映画全部見ている人なんていないわ!っていう。