抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

国境「息子の面影」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はメキシコ映画。アニならでおしゃべりしている仲間である、つうさんが2020年の実写ベスト5に入れていた作品。薄情なことに私は、この映画の公開が発表された時に「誰かがベストに入れてたなぁ」などとつぶやいて、それは俺や!と教えていただいちゃった次第。2020年の年末ベストはまだ対面でやってたんだなぁ…。

Identifying Features [DVD]

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

 

1.メキシコ怖い

 いや、こんな言葉で片付けちゃダメなんですけど、一言で言ってしまえばそういう映画でした。雄大にして広大なメキシコの自然を映すカメラが、しかし人間を捉えるとそこで起こっているのは地獄絵図だ、というもの。『ランボー ラスト・ブラッド』でも非常に危険な場所として描かれていたメキシコですが、あの時はアメリカの負の象徴としてのランボーが、トランプ的な側面を描くためにメキシコを露悪的にしている面が多少あると思ってたんですが、本作はメキシコ人の監督がメキシコで撮った映画で、メキシコで起きていることを描いたもの。そこでこの治安の悪さ、となると本当にただ事ではない。そりゃ、アメリカへと越境していく人たちが増えるのも分かるし、そこに壁を作ろうという話の荒唐無稽さ、国境警備に自主的に乗り出すアメリカ側の保守的な人たち、色んなことを繋ぐところにこの映画があるな、と思いましたね。そういう意味では、少年ミゲルがアメリカから強制送還されて、国境を越えていく長回しのシーン、そしてその終わりにバックに映る大量のライト(そう、国境を目指す車のライト)が印象的だ。

2.映画の受け止め方を間違えちゃって…

 これは私の読み取りの違い方でちょっと申し訳ないな、と思う話なんですが、正直こういう映画だと思っていなかったんですよね。2点あります。

 まず、ロードムービーだと思っていたこと。割と映画の説明として、息子を探す母と家に帰りたい青年が旅をする…みたいな感じの触れ込みだったもんだから、ロードムービーとか、疑似家族の方向かな?と思っていたのに、100分切る映画で両者が合流するのは45分ほど経ってから。この時点で、そっちの治安悪いです、というドキュメンタリック、告発型の方に行くと思ってなかったのでどうしても遅さを感じてしまいました。

 で、もう一個は、うーん、作り方としてそうできてるように思えるんで、やっぱり前半失敗しているようにも見えるんですけど、テーマですよね。前述のように、今メキシコで起きていることをそのまま描く、ということが目的だったので、マクダレーナが探し求めていた息子が麻薬カルテル的な組織(証言者の言葉を借りれば「悪魔」)につかまっていて、むしろ使役されている、っていう展開というか、オチは納得します。出来るんですけど、だったら描く話の持っていき方はやっぱり違うかな。

 というのも、この映画は明確に喪失に対する受け止め、っていうのが描かれる文法で作っていると思うんですね。マクダレーナさんが息子を探している時の遺体登録所的なところでの、同じく息子を探していた母(彼女の場合は息子の遺体が明確に見つかっている訳ですが)との対比ですよね。決定づけられた死がそこにある彼女と、友人の遺体や本人のカバンは見つかっているけど遺体が見つかっていないマクダレーナ。シュレディンガーの猫だし、実際彼は生きていたけど、でも確率的には絶望的な訳で。その喪失を受け止められないマグダレーナが納得していく物語に見えるんですよ、どうしても。

 そこに決定打を与えるミゲル。彼は5年ぶりに帰ってきた我が家へマクダレーナを伴って向かうが、そこにあったのは蠅のたかるヤギの死体と空っぽの家。彼もまた喪失と向かわざるを得なくなり、そこに後悔が映り、マクダレーナにとってひとつの覚悟をもたらす、と思っていた。映像も風景とこの2人がメインで、第三者が喋っているのに顔を映さないところもあって、この2人の受け止めに終始したいんだ、っていうメッセージも感じていました(誤読だったけど)

 ってとこまで考えて、『やがて海に届く』で浜辺美波の喪失を受け止められない岸井ゆきのっぽい話だなあ、なんて思っていたらまさかの無情っていう方面にいっちゃって、正直コメントが難しいです。