抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

あなたが良くても世間はどうかな「流浪の月」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は李相日監督最新作『流浪の月』です。監督だけでなく、キャストも勢ぞろいで登壇する完成披露試写会に当選したはずだったのに、なんかの手違いで当選権が無くなっていましたが、謎の二段構えで別の試写会の当選をキープしていて見れました。別の試写会キープとか、初めてしたのに。運がいいのか、悪いのか。

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WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

(以下ネタバレあり)

1.真実と事実

 本作は本屋大賞ってことで、原作力が既に担保されているような作品ですよ。ですからもうそりゃ話はいいですわ。15年前に誘拐犯と被害者という関係だった文と更紗が時を超えて松本で再会するも、互いにパートナーがいて…なんて予告。文は松坂桃李で、更紗が広瀬すず。パートナー役はそれぞれ多部未華子横浜流星。多部ちゃん出てくるのめっちゃ遅いし出番少なかった…。

 で、そういう導入で見ていると、もしかしてサスペンス気味になっていくのかしら、なんて雑に思って鑑賞に臨んだんですが、もう最初に15年前の事実を提示してくる。15年前と現在が交互に進んでいく感じで、決定的に何か15年前に起きていたのではないか?という疑念はぬぐえないまま進むものの、両者の関係性はもう見るだけで分かる。少なくとも、性的暴行があったようには思えない。しかし、警察を始めとして周囲の目線は当然そうではなく、ロリコン誘拐犯と性的暴行を受けた可哀想な女の子、というラベリングがされて生きることを余儀なくされる。

 その後、見事なDVメンヘラっぷりを発揮して完全にホラーになっていく横浜流星の元を離れた更紗は、文の隣の家を契約。流れで同僚の娘を預かったらそんままどっか行っちゃう。そうすると世間的には、誘拐犯+洗脳された被害者+新たな犠牲者っていう図式になっちゃいまして、事実週刊誌にそう書かれて警察も梨花ちゃんを保護しにやってきてしまう。またしても、観客が起きていることと、作中現実との齟齬が発生し、どうしてもやるせない気持ちになるのだ。

 最終的に、文が性的暴行をしていない、という証拠として彼は全裸になって、性行為が不可能であるようなことが描写される。性的暴行のシーンが多い作品ではあるが、まさか一番肌を見せるのが松坂桃李だとは思わなかったが、それすらも観客にしか提示されない真実だ。彼らは、互いがラベリングされていない状態でコミュニケーションを取れる唯一無二な存在であるのに、一緒にいようとするとそれを周囲は許さない。まるでヤマアラシのジレンマのように。

 2人の関係性が非常に見ていてつらいな、っていうのはありますけど、まあでも1歩引いてみちゃうと、アカンやろ、っていうのもね。雨降ってる中で女の子に「家来る?」が初手で出てくるのはやっぱフツーにダメだし、性的暴行は無くても誘拐は成立してるもんなぁ、っていう。更紗の方も、横浜流星をぶん殴った後に警察頼ってほしいし、それを見つけた文も多部未華子を呼んでほしいよな…。こういう作品で作中人物の行動をあげつらうことほど意味のないことってないと思うんですが、しかしどうもそういう性で。基本的には、前述のように2人の関係性を眺めつつ、ああ人類ってダメね、なんて諦観を持ちつつ、念頭にはそういう指摘が浮かぶっていう感じです。

 ラスト、15年前、更紗の唇についたケチャップを文が拭うシーンが挿入されます。本当は文は小児性愛者だったのか、というビミョーな感じで終わります。っていうか、会場で監督が観客に聞いたんで、そうかそこが解釈分かれるんだな、って。私は小児性愛の発露ではなく、共依存が誕生した瞬間を描いたものだったんだ、という解釈でした。ここで2人はラベリングされえない関係性を確立した、冒頭から残っていた本当は性的暴行もしていたのでは?みたいな疑問を拭う形で終わったというか、関係性の作品ですよ、という。そういう意味では「万引き家族」っぽさはあるかもしれない。

 うん、でもやっぱ長いよね。何度も繰り返して余韻を出す手法だとは思うんですけど、この監督の作品はいつも長く感じます。もっとキュッとしてほしい。

 最後に本当に余談中の余談。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」を聴いていると、どうしても毎年の風物詩としてOKB48総選挙がある訳です。そう、お気に入りボールペン総選挙!そこで人気のボールペンとしてゼブラのサラサっていうのがあるんですよねぇ。映画だと更紗を音で聞くので、つい後ろにRつけてサラサRと思ってしまいました。ちゃんちゃん。