抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

重いテーマを前面に「護られなかった者たちへ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は試写会に当選したので見に行ってきた作品の感想でございます。ただ、その日は試写会が終わってから即移動、アニならに公園から参加という意味不明なスケジュールで、蚊に食われまくりました。あ、知ってます?蚊に食われるって方言らしいですよ。

 なお、東日本大震災の被災描写が出てくるので、ご注意を。

映画チラシ『護られなかった者たちへ』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

1.リアルと地獄の「岬のマヨイガ

 主だって本作は現在パートと過去パートの2つの軸で描かれていきます。そこの時間軸移動がスムーズだったか、とか、分かりづらさに繋がっている感は否めませんが、まあそれはそれでおいておいて。

 現在軸では、連続餓死殺人事件を捜査する阿部寛の捜査パートっていうのが基本的な側面で、どうやら被害者はみんな生活支援の社会福祉士みたいな仕事をしている、ということで、生活保護の受給者や申請を認められなかった人たちの逆恨みによる犯行ではないか、という感じで捜査は進んでいきます。

 一方、めちゃくちゃ無愛想な佐藤健が被災し、避難所になっている学校に身を寄せ、そこでおばあちゃんと少女の3人で疑似家族を形成していく、そしておばあちゃんはとんでもなくいい人っていう、『岬のマヨイガ』でこれみたやつや!な展開がこっちでは続いてく。ただ、この世界にはふしぎっとがいないので、被災者の中には順番ぬかしとかをする悪いのもいるし、みんないっぱいいっぱい。そして、当然料理だってあんなに楽ちんにはいかず、ばあちゃんは生活保護を頼らざるを得なくなって…。

 2つ目の事件が起こるのが1時間を超えたあたりで、容疑者として佐藤健が名前が挙がるのが若干唐突だったり、とまあ色々ありますが、現在パートで佐藤健は出所してきて、その罪状は放火だったりするけど、いったい全体どうしてあの幸せな疑似家族状態から放火をするようになったんだ?という疑問と、事件の犯人は?というミステリの謎で基本的には引っ張っていくことになりました。

 でまあ、瀬々監督なのでね、私自身あんまり得意ではないんですが、『楽園』『64後編』なんかでも顕著ですが、重い感じのテーマを扱う時には、その重さを重力何倍の惑星で撮影したんですか?ってぐらい重くしてくる。音楽も含めて、重厚と言えば聞こえはいいですけど。重いですよ!!って感じに打ち出してくるので、それが説教臭くなってしまったり、重すぎる!となってしまう人は出てきそうな気がしました。

2.「護られなかった」の対象の食い合わせ

 今回の映画は「護れなかった」という主体ではなく、「護られなかった」という客体表現になっています。即ち、本作で言えば東日本大震災の被災者、として生活保護の受給者および生活困窮者ということになるでしょう。

 しっかりと描写される生活保護受給者と清原果耶のやり取りなんかは、この国が行っている水際作戦のくだらなさをしっかりと映していますし、生活保護に関して、一家言ある感じはぷんぷんする。これを総選挙の時期にぶつけてくること自体も結構チャレンジングな印象を受けます。伝えられるメッセージ自体も、重すぎる伝え方をしている点以外ではうなずけるものですし、もっとこう称揚したい感じはあるんですが。

 やっぱり気になるのは、食い合わせの悪さですよね。生活保護の受給者を減らす方向に動いた今回の被害者たちは、特に演じる永山瑛太さんの邪悪だけど普通の笑みが素晴らしい演技でしたけど、彼らもまた被災者で。全員は救えない、っていう現実と、それでも押し寄せる生活困窮者の波、そして千原せいじ演じる不正受給者の横柄な態度と相まって、どっちかと言えばセーフティネットとして生活保護が十全に機能していない、捕捉率の低さが問題なのでは?みたいな問いかけのはずが、不正受給はやっぱり許されない、の方向に動いてしまいそうなこと、そして割と純粋悪的な筈の被害者たちに同乗の余地が生まれてしまうのは食い合わせが悪い感じがしました。

 食い合わせが悪い、といえば阿部寛の役が震災で妻子を失っている設定も映画自体にはそんなにいらないかな、と思いましたね。そのおかげで、バディを組む林遣都のポジションに被災者以外の鑑賞者は身を置けるんですが、それにしたって、そういう設定の開示だけでよくて、あんなに重くそこの話をする必要があったのかな、とは思います。

 まあ後は当然清原果耶ですよ。素直に初見では、え、何歳だっけ?と思える大人っぽさを兼ね備えた上で、まあ佐藤健が露骨なミスリードとして存在しているので、彼女しか犯人足りえる人物はいない(最初の事件の時の、土地勘があるだろう、とかそういう諸々に合致しているのがこの映画では彼女しかいない)ので、サプライズにはなりえませんでしたが、それにしてもいいキャリアの積み方をしていると思いませんか。色んな実写作品で力を見せながら、主演作品も獲得、いい脇役として世評を獲得しつつ、『夏への扉』でヒロイン、朝ドラヒロインも経験し、ここにきてこの年齢で連続殺人犯まで演じたわけです。完全なアイドル俳優路線の浜辺美波と比較すると、かなり幅の広い、それでいていい作品選びをしている感じで、彼女のこれからに、期待が止まりません。