どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。
今回は、ベルリン映画祭で金熊賞を受賞した作品、ですが、そこから劇場公開用に監督による自己検閲がなされたR15指定verの感想です。『TITANE/チタン』にあげたカンヌといい、このベルリンといい、あんたら凄いな!!そして配給がJAIHOだった。配給もしてるのか。
WATCAH4.5点
Filmarks4.4点
(以下ネタバレ有)
1. パート1一方通行の通り
ここではいきなりのセックステープ!流出です。私みたいなサッカーバカはベンゼマ!って思い出すんですが、よく思い出したらベンゼマは流出したんじゃなくて、流出したヴァルヴュエナに恐喝した疑いで代表を追放されたんだった気がする。ここでどんな情事が行われてたかは、監督による自己検閲で見えなくなっているものの、検閲で張られているシールがもうやっすいPCのそれで、後ろに見えそうだし、音は全部生きているんで、なんだか見てるこっちがバカにされている気になってくる。
さて、カメラはセックステープに映っていた主人公エミを追う訳だが、コロナ禍でどうにもピリピリした街の様子。まるでドキュメンタリーのようでもあり、コロナで浮き彫りになっただけの、格差拡大と人々のストレスの限界に達しつつある現代を表しているのかも。街中では、コロナに関する宗教的な陰謀論もあれば、まさかの神風特攻隊に関する議論まで(彼は背中に「信頼」って書いてあるシャツ着てる)見られて、とにかくあっちこっちでなんか息苦しい。マスクもしてるやつ、してないやつ、顎マスクのやつと、まあグラデーションがあって、この辺は日本人にはちょっと理解しがたいところかもしれん。
さて、エミは冒頭のセックステープを夫がアップロードしちゃう。慌てて消したのにブログやらPornhubやらに転載されちゃって大変。Pornhubって壊滅したと思ってた。壊滅前の話なのかしら。まあ、それはどうでも良くて、彼女は教師なので、問題視されて保護者会案件に。
2.パート2 逸話兆候奇跡の簡易版辞書
ほんとうに辞書のようにさまざまな項目をアルファベット順に、しかもいろんな映像を引っ張ってきて並べる。一見意味の無いパートに思えるが、真実、独裁、ミソジニー(男根主義への批判)みたいな、ちょっとした共通項が若干見え隠れ。ここで並べられた事柄が、見事に第3部に生きてくるので、集中を切らさずに見てほしいところである。
3.パート3 実践とほのめかし
ここはワンシチュエーション。怒涛の保護者会編!
まずは事態を把握しましょうといってダウンロードしておいたのを流す保護者。前線に集まるのは男ども。初手でいきなりすっごい加害をかましてくる保護者。ここは簡易法廷で、自分らは断罪する側だからそれでいいのね、ってな具合だ。
基本的には保護者は、こんな奴が教師だなんてありえない、子どもを脅威から守りたい、と述べ、エミは夫婦の行為はプライベートなことであり、何の問題も無い。アダルトコンテンツにアクセスした生徒がいるのは親の指導の方の問題では?と主張。教師の私生活に干渉する保護者、っていう点では子どもの行事を優先して学校の卒業式かなんかを欠席した教師の事案とかを思い出して、保護者にむかついたわけだが、議論は気づけば大きなものになっていく。
保護者の指摘は、インターネットには、誰でもアクセスできる。だから有害物を公共空間に出すな!というもので、一緒くたにしてしまうのは危険だが、例えばこの映画をオンライン試写で鑑賞した時点で話題なので言えば日経新聞に掲載された「月曜日のたわわ」広告問題なんかが近いだろうか。どこまでを公共とみなし、どうゾーニングしていくのか。セックステープという劇物を題材に持ってきたことで、議論を極端にさせることに成功しているように思えた。
そこに対して、いや私的なものだわ!という教師。互いにゴールポストを動かしながら、議論はもうしっちゃかめっちゃか。やれ、女性への眼差しだ、田舎への眼差しだ、娼婦への眼差しだ、このマスク討論会は見事に偏見まみれの世界の垂れ流し。話は進まねえ。挙句は歴史戦がここでも。ルーマニア人にとってのヒトラーっていうのもまたちょっと面倒なジャンルなのね、と思いつつ、全くレイヤーの違う話を互いの偏見をぶち混ぜながら、議論が一向に進まない様子が明確に現代社会の風刺であり、インターネット空間、特に掲示板文化やSNSへの風刺となっている。
4.3つのエンディング
まさかのマルチエンディング方式を採用した本作。
①13対15で残留!
②14対10で追放!
③ジョークで終わる。
①では、シンプルに多数決をとって、エマは教職への残留が許されるが、メインで喋っていた追及派の先鋒の女性は投票方法に不正があったと訴え始める。
②では、そうした女性の訴えを受けたような投票資格の制限が設けられ、結末が変わる。アメリカで黒人の投票権を制限する方法をあの手この手で考えていた時代を思い出し、チャウシェスク政権でもそういうことしてたのかもしれん、と思う。
③では、投票結果自体は②と変わらないものの、エマがワンダーウーマン風に変身!真実の投げ縄ならぬ、シンプルに投網を行って、ディルドを武器に捕らえた男たちに攻撃をする(そういえばパート1のスーパーにスーパーマンいたわ…)。ここでディルドをおそらく男性の口につっこんで出し入れしてるんだが、まあここも検閲。ただ、これによって、ワンシチュエーション、箱庭のくだらなさが、見られることを前提にしたジョークに変容。こういう現在の世界を笑って見ているだけの観客、おう、お前だ!お前もこの作品の中の一部だぞ!とくぎを刺してくる。結果的に、自己検閲版の方が、完成された作品になった印象だ。
ルーマニア映画と言えば、これもまた笑えないドキュメンタリー映画『コレクティブ 国家の嘘』を見ているので、ルーマニアの現状を多少なりとも知っていると、本当に笑えて、本当に笑えない。そういう映画でした。