抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

心地よいコンゲーム「騙し絵の牙」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回はみんな大好き、御存知!大泉洋さんの主演作をオンライン試写で見ることが出来た感想です。みんな騙されてるらしいんで、ネタバレ踏まないように気を付けてね!!(あんまりネタバレ禁止、みたいな映画でも無い気はしますが)

騙し絵の牙 (角川文庫)

WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

(以下映画および原作のネタバレ有)

 

1.大泉洋劇場に見せかけた…

本作の原作は塩田武士さんによる大泉洋をあてがきした小説。その実写化がビシッと大泉洋に決まった時点(出来レースとか言わない)で、その活躍っぷりを堪能する映画になること間違いなし、な感じでしょう。とはいえですね、どうもどうでしょう藩士である私は、大泉さんの大泉さんたる所以は誘拐されてボヤく、ゴネる、というところだと思っているのでね、どうも出来る男大泉洋に慣れていないのであります。またしても何も知らない大泉洋さんっていうのが面白い。ということで、この映画で大泉さんが演じた速水がThe大泉洋だったのかは、もうっと客観視できている方の感想に任せようと思います。後ろから声かけられたらサイコロで博多号引いた顔して欲しいよね。

 ただですね、この映画は大泉さんの映画、といっていいのか分からんぐらいに松岡茉優演じる恵の出番が多い!基本的に視線が彼女のものになっているので大泉さんは彼の苦悩を述べたりすることはなく、困っている様子や翻弄されていく感じは彼女に一任。言ってしまえば、原作ではベッドを共にする関係ですらある速水と恵ですが、そういうシーンは無くし、更に視点を速水から恵に変えただけでなく、両者の役割も綺麗に入れ替えてしまう、という脚色を加えています。会社とは違うプライベートの顔を見せるのも速水から恵に変わっているし、何を考えてるのか良く分からないのが恵から速水に変更。その結果、吉田大八式の群像劇にはなっているものの、その中でも感情移入先としての松岡茉優が光り輝いていると思います。

2.ここまでの改変はアリか

 さて、原作との比較で恵と速水の役割が交換されていることを取り上げましたが、本作は原作とは全く異なるものだ、と言ってしまっていい作品に仕上がっています。原作では、速水は『トリニティ』廃刊を阻止するためにいろいろ動く中で、社内政治と出版界をとりまくアレコレとも戦う、そういうかなりレンジの広い話。ところが、原作小説では速水に危機感を持たせる役割としてあっさり廃刊する小説薫風が今回の映画では健在であり、小説薫風&常務派VSトリニティ(ってか速水)&専務派という社内政治を前面に押し出している印象。んで、守ってきたトリニティを維持する話ではなく、トリニティを改革する新任編集長、という立ち位置。なのでトリニティの編集部員ともどちらかといえば速水は対立していることになる訳です。原作では大きなパワーゲームの担い手である大御所二階堂も恵が薫風からトリニティに移籍するそれだけの役割にしちゃっている感じもありますし、池田エライザ演じる咲はえらい事件まで起こすキャラに変更。

 ここまでしてしまったら、いわゆる実写化に伴う改変問題も出てきそうなんですが、本作では正直それを感じなかったというのが正直なところ。勿論、原作への思いの強度がそれほどではない、というところはあると思いますが、変更が加えられた多くのキャラはポジションは同じでも名前が変わっていることで配慮を感じます。速水と敵対する常務の宮藤が自爆するのも、ネタこそ違えど原作で多田も通った道だし、確実に大きなルートはわかってて変えている。それでもちっとも混乱することなく進んでいく吉田大八監督の交通整理力は、脚本としても、画面の構成力としても素晴らしいものがあるように感じますね。

 導き出されるゴールも、原作では速水が薫風社に敗れた後に、全部ひっくり返す独立、それも出版社としてというよりエージェントとして、という手段でしたが、本作では恵が本屋の拡張という形でどんでん返し。出てきた形は違えど、現状の出版界はシュリンクしていくだけである、という現状認識に対する回答としてありえる違う形をしっかり示して娯楽作に昇華させているのではないでしょうか。まあちょっとね、速水の原動力が面白い、だけで進んでいるのが納得いくかどうか、というとこですかね。