抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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疑似家族としてのヤクザ「ヤクザと家族 The Family」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は藤井道人監督最新作。枕詞が「新聞記者の」ばっかりで「宇宙でいちばん明るい屋根」が直前作なのになんか寂しいな、という感じがしております。

 そういえば鬼滅の2期決まりましたね。音柱が活躍するみたいなんですが、私は既に彼が誰の声だか覚えていません。

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WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

(以下ネタバレ有)

 

1.いわば平成日常史

 本作の大きな特徴は3つの時代に区分できること。まずは主人公の山本賢治がヤクザに入るきっかけになる19歳の時の話。次いで、6年とんで2005年、ヤクザとしての賢治をしっかりと描きます。そこで刑務所に入った賢治。そのため次の時系列はなんと14年後の2019年。暴対法が強化されたヤクザの生きづらさを描くようなシークエンスですね。

 それぞれのシーンに合わせて画面のサイズを変えることで、全く違う映画かのような表現手法を取り、明確に3つの区分をしていますが、藤井監督はおそらく確実に平成史としてこの作品をとらえている。年号だけでなく、平成何年と横に表記しているのはそのためでしょう。それでいて、平成を揺るがす大事件である1995年や、東日本大震災を描くことはせずにあくまでゆっくり変わっているように感じる日常が大きく変わったんだ、という視点。

 暴対法の強化が08年(っぽい)ので、05年からの14年間を刑務所で過ごした賢治にとっては、ヤクザを取り巻く状況の変化はエヴァQのシンジ並みに説明してくれ!!な感じでしょうね。また、話の中では定点として登場する愛子の焼き肉屋とそれに連なる商店街の様子が、商店街、あるいは地域経済が疲弊していった時代が平成だったな、と感じさせます。連絡手段が携帯からスマホに変わって、最後はSNSですべてをぶち壊される、なんていうのも現代ですね。

2.全く色の違う3つの映像

 さて、1パートずつ考えていくと、まずはいい感じの巻き込まれ主人公っぽさの出る第1幕。こののち、スーツに身を包むことになる賢治が、真っ白のダウンジャケットを着て葬儀にやってくる様子は非常に印象に残ります。まだ彼が色に染まっていなかった時代。父親がシャブ中毒になったことが死因でもあったため、麻薬売りから麻薬を奪ってそこの暴力団にボコられるも、直前に愛子の店で喧嘩に参加していてもらった舘ひろしの名刺で九死に一生。あれなかったら海外で臓器売買でしたね、バイバイ。

 2幕目になると、先ほど偶然敵対した組と抗争じみた展開に。店でいちゃもんつけに来たやつをぶん殴ってからのトップ会談、そこからの舘ひろし襲撃、復讐という展開は完全に白石和彌をやろうとしてるのかな?というぐらいの感じ。バンバン血も出てましたね。この辺りで、賢治は血縁的な絆をすべて捨て、完全に疑似家族としての組を重視するように。当然着ているのはスーツでしたけど、中のシャツまで真っ黒に。完全に「悪」に染まった、といっていいでしょう。

 ところが3幕目では疑似家族としての組が外圧で完全に機能しなくなっている。父としての組長も病に倒れ、北村有起哉はシャブに手を出し、他の幹部も自分で密漁してシノギを得る悲しさ。舘ひろしのやつれていく姿も新鮮ですし、シャブを打ってる北村有起哉の哀愁はたまらないものがありました。組長にやりなおせると言われて、14年前の伝手を辿って血縁としての家族を作り始めるのに、それが「ヤクザだった」というだけで崩壊。結局、愛子と翼の親子のシャバで生きる血縁的家族を守るために、彼は再び手を汚し、同時に一緒にすべてが無くなってしまった市原隼人に刺されるのでした。正直、疑似家族もののようでいて、血縁的な家族の力を信じたラストだったように思います。

  第3幕で成長して登場し、ハングレみたいな感じの翼は完全に第1幕の時の賢治。父親が亡くなり、結果的に任侠の世界に片足踏み入れていく。ラスト、実は賢治の娘だった彩

そういえば、第1幕の賢治も金髪だった。

 この作品だけ見ていると、まるで暴対法が地獄のような法律に感じ、口座も作れず、家も持てないヤクザに人権は無いのか!と憤りたくなるほど感情移入させられます。一方で、彼らが規定された法を犯し、また明確にいわゆる一般人に迷惑をかけていることも間違いありません。その模様もしっかりと第1幕・2幕で描かれたと思います。大事なのは、ここで法とヤクザのどっちかを絶対悪とすることでなく考えていくことでしょう。ヤクザじゃない、しかし完全な一般人でもない翼が生き残ったってことはそういうことでしょう。

 しっかし、チャンスを逃した東海テレビドキュメンタリー「ヤクザと憲法」は見なきゃだめだね、マジで。