抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

結婚という家庭に異物をぶち込む点滴「哀愁しんでれら」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は土屋太鳳が断ったのに熱烈オファーがあった結果受諾したゴチになります!、じゃなかった「哀愁しんでれら」の感想です。どうでもいいですが、前日に土屋太鳳の主演作品「トリガール!」を見たのですが、アマプラでのジャンルは暴力でした。 殴ってたっけ、トリガール?

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WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有)

 

1.白馬に乗った王子様なんていない

 基本的に不穏さしかない本作。予告編を見ている感じだと、土屋太鳳が不幸のどん底で踏切に横たわった田中圭を助けたら見染められて一気にシンデレラに。これでめでたしめでたし、のその後を描く…って感じの予告だったんでまあそんな話を想像していったんですね。基本的には、とにかく「哀愁」の部分を期待したっていうか。

 そう思うと、本作は少し物足りないところも。開幕の現状説明、からの怒涛の不幸連打には流石に笑うしかないレベルで楽しかったんですけど、そこからシンデレラになるまでがかったるく感じてしまった。いやとっとと幸せの絶頂に行ってくれ、と。ジェットコースターの下り部分を期待して見に行っているので、溜めてフリにしているのは分かるんですけど、その溜めてる時間のうちに後半への期待感よりも冗長さを感じました。田中圭の「パラサイト」もびっくりの外堀の埋め方は凄かったですが。

2.頑張らないと親に似る

 本作における重要な要素は親子関係。そもそも土屋太鳳演じる小春が結婚相手となった田中圭こと大悟の連れ娘であるヒカリとの関係に苦慮する物語でもありますが、小春の家出した母、どこか頼りない父、のような関係が映されていますし、大悟も大悟で前妻とどうやら上手くいっておらず、まだ大悟と大悟の母との関係も繋がっています。

 大悟は手を挙げた母を嫌っていると大悟の母は話し、その結果大悟は左耳を抑える所作をする。これがヒカリにも移っている。また地味に絶妙なのが、飲み物をストローで飲むときの持ち方と最後に音がするほど吸ってしまうところが大悟と母で同じなのだ。

 そして勿論、小春はかつて出ていった母親に振り払われた記憶があるのに同じことをしてしまう。更には、そのうちに小春も右耳を抑える動作をするようになり、最後は左耳を抑えるように…。

 そんな感じで大悟に育てられちゃったヒカリは作中でもまあアカンことのオンパレード。弁当・筆箱・転落死・靴泥棒のあたりはワタル君が好きだから気を引きたくて、ということなので、小春に対する豹変も本当に好きだったからなのかな、とは思いますが、とはいえマジでアカン。世界が自分を中心に回っていると勘違いしている子なので、多分これまでもやらかしてるんだろうな…

 強烈なのが「母親」というワードだ。ナポレオンの言葉を借りて、母親の努力がこの将来に直結する、なんて語られていますが、大悟の考えも含めて割と女性が育児をする、というスパイラルからは抜け出せていない感じ。この辺も含めて、色んな映画を見る度に思う「頑張らないと親に似る」を地で行ってる感じで、ああホント家族って地獄だな、私は所帯なんか持たないだろうな、と痛感するのでした。

3.点滴とインスリン、リジェクション。

 ラスト「ヒカリはいい子」であると信じることこそが正しい親としての在り方だと信じた大悟と小春は、それを否定してしまう現実を変える為に学校でインフルエンザの予防注射の際にインスリンを注射して大量に虐殺するというおっそろしい所業に打って出ます。ここの描写が淡々と行われるので、やってることに比べるとドライに感じますが、まあこの辺は『告白』を思い出したり。

 では、何故その手段を選んだのか。偶然思いついたように話の上ではなってますけど、そこで興味を引くのが度々登場する点滴。小春は結婚してから、点滴を打ってもらうのが夢だったと語り、点滴を大悟に打っていました。点滴つながったまんま発情してんじゃねぇよ、というのはご愛敬。そして、犯行を思いついた時には、2人とも点滴をしている。

 これってすごく結婚というものを表しているように思えるんですね。体に異物を入れる、という行為が家庭に外から人を迎える、という感じに似ているというか。

 んで、今回の話においては大悟とヒカルが小春という異物を摂取したが、一度は拒否反応が起こってうまく適合しなかったものの、小春がその後に適応してしまった、というものだろう。耳を抑える動作がまあその適合を示すわっかりやすいサイン。

そういう意味で言えば、少し疑問に思ったいわゆる「シンデレラ」的に女性だけが白馬の王子様を夢見ているような趣向の始まり方も理解できる。今回はたまたま女性の物語として描かれたが、日本では婿入りよりも嫁入りの方が一般的ではあるだろう。男女逆転させても成立するが、とにかく家庭に異物が侵入するのが大事なのだ。「いい母親」の呪縛は「いい父親」の呪縛でも成立する。ああ、書いていてやっぱりどんどん結婚なんてするもんじゃないな、と思ってしまうのであった。劇中でも言ってたけどさ、長く付き合おうとも全てはわからんし、10年付き合っても浮気されるんだからね。