抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

ルールはルール「茶飲友達」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はシニア層がミニシアターに帰ってきた!なんて言われている作品。カメ止めと同じでENBUゼミナールのやつらしいです。

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WATCHA4.5点

Filmarks4.4点

(以下ネタバレ有)

 

1.「家族」を追い求めて

 さて、この作品の題材は高齢者向け風俗。その道に明るくないので詳しいことは知りませんが、店舗型ではなく派遣型。茶飲友達募集中、という3行広告を出してひっかかった高齢男性に対して煎茶コースと玉露コースを選択させるもの。岡本玲演じるマナが丁寧に説明してくれるそのコース内容は、完全に風俗のソレで最初は本当に友達が欲しかっただけだとしても、いずれは転んでしまうだろうな、というもの。この完全なる管理売春組織を軸にして、ファミリーの一員たちの群像劇的な様相を描く。

 この「ファミリー」って呼び名も相まってすごくギャング映画とかやくざ映画とかその辺の匂いがしてきますね。自分の属している家族っていうコミュニティが凄く希薄だったり、嫌っているからこそ似たような人たちで集まって疑似家族ごっこをしている。ただ、その疑似家族ごっこの過程で本当の家族に向き合うチャンスを得る。ファミリーっていうものを追い求めて、その幻想の中でそれが壊れていく最後10分15分ぐらい、それまでの盛大なフリと一旦のハッピーエンド感もあってとても面白い。バカが多いんですよね。悪いことと思って悪いことをするギャング映画とか、悪いことに覚悟と仁義を持ってるヤクザ映画とも違って、純粋に良いことをしていると少なくともマナは思っている。そう思えるように、利用者も風俗嬢も漏れなく輝いて見える。もう一度春が来たみたいに。だから言ってる内容がマフィア映画的なのに、ちょっと『ソーシャル・ネットワーク』みたいな単純に若い力でベンチャー起こしてる感じにも見える。これからのライフスタイルのパイオニアとして、とかなんとか言って言葉ロンダリングしてるの、ファミリーと呼ぶと同じですよね

2.公助が機能しないなら

 まあ社会問題的なものを相当描きこんでいるわけですね。シンプルに高齢者の孤独死、コミュニケーションを欲する気持ち、高齢者と性っていう入り口に飽き足らず、最も印象的なのはシングルマザーになる話。自治体の窓口に相談しに行った際の子育て給付金の支援のやり取りでは、生活保護は権利ですけどあてにすんなと役所から言われてしまう。無論、ある程度は正論なんだが、それって本当に支援する姿勢なの?そういうグレーさがこの映画にはずーっと付き纏う。このティーフレンドがやっていることは、完全に違法な管理売春なんだけど、高齢者同士の横のつながりを生み、社会でドロップアウトしてしまった若者の雇用を生み出し、「ルールはルール」といってくる上等な世間様からは決して認められなくても確かにそこに連帯はあった。疑似家族として描くことも含めて、凄く『万引き家族』っぽい印象です。なーんて思っていたら摘発されてからの警察の説教シーンがあって、本当に『万引き家族』でした。『万引き家族』でもイラっとしたけど、本作でもイラっとしますね。あ、でも今回に限って言えば、なくても良かったかな?家族という幻想を追い求めて追い求めて作ったのにそれが崩壊して、仲間たちが逃げ出し、金を持ち逃げし、最も疑似親子になれたと思った松子にあんただけ捕まればいい、あんたに何が分かると突き放される。それでマナの物語としては良かったような気もします。だって、あっこでお母さんが訪ねてきちゃったら、本物の家族が強くなっちゃうように思えるもの。でも、あの段階でお母さんが歩み寄ったって手遅れなんですよ。マナが歩み寄った段階で歩み寄れれば小さな希望があったんですけどね。そういう意味では、劇中の多くの人物と同じようにこのお母さんも希望を持とうとして死地に赴いたみたいなもんかもしれんな。

 そして何より渡辺哲ね。始まり、エプロン、そして〆。彼の部分だけ抜き出しただけで1万点あげたくなる。

 いずれにしても、凄まじい共助の強さと脆さをどっちも描いた映画であり、セーフティネットってなんだろうと思ってしまう映画でした。よくできている(cv.国井咲也)。