抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

12月の海外アニメ「Away」「FUNAN」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 えー、完全に面倒くさくなってます。ラトビア映画とカンボジア映画を同列に語る中々な暴挙に打って出ています。どうかお許しください。

 と2020年に書いていました。2021年の皆さん、許してください。

 

1.Away

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WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

 ラトビアの26歳の青年監督が3年半かけて音楽まで含めた全てを手掛けた作品。なんやそれ、恐ろしい。だって私より年下ですよ。高校球児とか、新入団選手見てああ若いな、なんて思ってたら映画監督が年下になってきました。どこいった、私の理想のちゃんとした大人像。えー、なんかすっごいお洒落なカフェで行われた先行上映会にて鑑賞し、ラトビアのシードル片手に監督と数土直志さんとの対談を聞けました。

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 話を作品に戻すと、飛行機事故から脱出した男性が迫りくる何らかの影のようなものからただ逃げるだけの模様を4つのパートに分けて、セリフ無しで届けるというかなりチャレンジングな内容。影響を受けたものとして、「ワンダと巨像」を挙げられていたんですがゲームには疎くて。「巨影都市」は少し頭によぎりましたが(ゴジラ関連ならプレイ動画を見る気になる)

 まずもって基本的なとこから行くと、最初に墜落した地点から逃げるときは左に逃げてオアシスにたどり着き、そこからは逆に右にだけ進む。横スクロールとはまた少し違いますが、方向はそれで徹底されているので混乱することはありません。全体的にPCで独力でやったんだろうな、と思われるが決してチンケなものじゃない彩色がとられていて、普通の画面ではあまり高低感とかは感じないんですが、とにかく奥行きを感じるつくりで、カメラが動いてバックショットでとにかく前に進むシーンや、橋を壊して影が転落していくシーンなんかは奥行きを高低差に上手く転用していて、立体感を出せていたように思えます。

 それから何といっても素晴らしかったのはポスターにも採用されている第2章の鏡の湖のシーン。水面に境界線を引かないことでまるでバイクが中空を走っているかのような錯覚すら起こしてしまう美しさでしたね。この辺は、セリフがないことも大きく影響していると思っていて、セリフや文字を排しているので、視線を字幕とかに誘導されることがないんですよね。それでいて、先述の通り奥行きがある画面でカメラワークを使って集中させてくる。75分の映画の鑑賞体験とは思えない集中力と充実感を持たせてくれるのは、その所以でしょう。

 んで、結局追ってくる影は何だったんだ、何の物語だったんだ、というところは非常に鑑賞者に委ねてくるのがこの物語。なんか象徴的な気がするぐるぐる回る眠りの井戸(英題ではdream wellだったかな?)なんかから実は生まれてくる前の物語か?とも思ったんですが、うーん、どうもぴんと来ないし、その場合何が追ってきているのかの解釈が難しい。

 個人的には、追ってくるものはオアシスには立ち入らなかったし、むしろそのまま留まっていた。そして、逃げるための道具もそこに準備されており、更には進む道は全て明示されていた。橋を壊すための岩なんかも実におあつらえ向きにセットしてあったわけです。即ち、彼は自由気ままに逃げていたのではなく、誰かのレールの上を走っていた、いや、おそらくは最後にたどり着く港湾の町まで戻ることが必要だった。ある目的に対して、ロードマップが明確にある中で一度後ろに下がって、立ち止まり、向き合う覚悟をしてから走り出す。監督個人にとっての創作とはどのようなものであるか、を描いたような作品なのかな、と思っています。監督もプライベートなことを書いた、みたいなニュアンスのことを言ってたし。

 そういえば、上映後に監督への質問で、全部一人でやるなら、どこが終わりだと自分で決めるのか?という質問がされていて、なるほど!と思いました。最後に主人公は雪崩に追われ、目の前は海へと続く滝。最早ここまで、というところでバイクで勢いをつけてジャンプします。これって、作品の完成、という瞬間で踏ん切りを持って放り出す瞬間が必要ってことに感じます。そして最後には手を振っていた住民たち=観客の下に届けられなくてはならない。書いてるうちに割といい解釈な気がしてきました。こういうときは大体的外れです。

 最後に、Youtubeで監督のこれまでの短編が見ることができるので雑感を。各タイトルと監督の名前Gints Zilbalodisで検索すれば見れるのはず。

 「Rush」は光と背景の使い方が絶妙で、同時に本作にあった迫られる感触を車との遭遇から感じます。

 「Aqua」は文字通り水の表現に力を入れた作品だが、津波から逃げる動物の筋肉の伸び縮みを感じられる躍動感がまた良い。

 「Priorities」はかなり本作「Away」に近い。墜落した青年と犬。筏で脱出を図るが、犬が筏から落ちて犬を取るのか、脱出を取るのか。アニメーションだが、手持ちカメラの揺れのような撮影で波の揺れを表現している。

  「Followers」は人間ドラマで、強盗か何かの仲間割れとその後を描いている。これをセリフなしで理解させるのは凄いと思うが、さすがに難しいところも。

 「Inaudible」はギンツ監督の短編群の中では一番傑作だと感じた。耳の聞こえなくなったトランペット奏者の青年を描いているが、セリフがないのにその状況をわからせるストーリーテリングも見事だし、音楽を愛した男が音が聞こえない絶望を良く描けていると思う。

2.FUNAN

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WATCHA3.5点

Filmarks3.7点

 本作はカンボジアの地獄、クメール・ルージュの時代を描いたアニメーション作品。

 クメール・ルージュがどんなものかは知っておいた方がいいのかな、とは思いますが、まあひどい目にあう、とだけ理解していればいいと思います。

 マクロな視点でクメール・ルージュを追うのではなく、爆撃の危険があると首都プノンペンから追い出されてしまった家族のミクロに焦点を合わせることで、かえってその地獄っぷりが伝わってくる構成で、一人、また一人と離れたり、命を落としてバラバラになっていく様子は胸をどんどん締め付けてきます。

 シンプルに中心には息子ソヴァンとはぐれたまま、家族がどんどんいなくなり、強制労働に従事する母親チョウの不安がおかれていますが、他の家族との交流、頼ろうと思っていた親戚がすっかり革命に染まっている、と思いきや意外と人間を失っていない、革命組織オンカーの地獄っぷりと、まあ全部が全部辛い。そんで、それだけいいことが無いのに、夕焼けが、田植えの景色が、あぜ道を走る背景が美しいんですよね。それがどこかまた辛くなっていきました。

 うーん、東京国際映画祭で鑑賞したトゥルーノースの感想(映画公開まで寝かせてある)でも思ったのですが、この手のドキュメンタリに近いタイプのアニメーションを見て、面白い!というのも違う気がするんですが、だからといって、面白くない!とも言い難い。評価軸が難しいな、と思っております。