抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

愛すべきクソジジイ「すべてうまくいきますように」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は初挑戦のフランソワ・オゾン監督作品になります。

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WATCHA4.0点

Filmarks3.9点

(以下ネタバレ有)

1.ゴダールを想いながら

 今回の作品は尊厳死を扱った作品。安楽死ではなく、尊厳死、というのが言葉としては適切です。というか、そこの線引きは今回の映画でもしっかりされていた印象。脳死判定状態などで医者が薬品を投与したりすることによる死ではなく、あくまで本人の意思が確固たる状態で、本人が薬を飲んで死を迎えることを妨げない、ということで雰囲気的には自殺ほう助とかの方が近いかもしれません。劇中でも警察が関与する状況になりますが、あくまで罪状としては危険放置、という風に言われていました。ということで、フランソワ・オゾン監督作ということで、フランス映画ではありますがフランスも法的に尊厳死を認めておらず、実際の手続き的にはスイスで行われます。

 スイスで尊厳死、ということになるとやはり2022年9月に亡くなった映画界の巨匠、ジャン=リュック・ゴダール監督のことを思い出すのではないでしょうか。まあ想いながら、とか言いながらゴダールの映画は見たことないんですけどね。ただ、実際に名の知れた映画監督が同じ決断を下した、と思ってこの作品を見ていれば当事者性というか、絵空事ではない感覚を共有していけると思います、というか私は思いました。日本でも安楽死尊厳死といった問題は議論はされども許容されない、という段階ですが高齢化社会を迎えるにつれて当然もっと真剣に向かい合わざるを得ない話。『PLAN75』みたいな映画もありましたが、『ドクター・デスの遺産』みたいな安楽死をロクに描く気もない映画もあるんで困りましたなぁ。

2.来るべきその日に

 さて、まあこの映画を見て各々がどう思うか、尊厳死を受け入れるのかをどう考えるか、っていうのが大事だと思いますが、それはそれとしてフィクションとしての面白さもしっかりある、っていうのがこの作品の面白いところ。

 尊厳死を望む父、アンドレがまず単純にキャラクターとしてチャーミング。非常に頑固で、尊厳死についての意志を曲げることはなく、それでいて問題の人物ジェラールへの甘さだったり、孫の発表会までは生きたい、と言い出してみたり意外とわがまま。で、それに振り回される主人公のエマニュエルと妹のパスカルが本当に大変。自分の父が死にたいと言い出していて、でもそれを認めざるを得ない、それが愛情だ、父の願いを受け入れようと思うんだけど、必要な書類をまとめたりして、法的に問題なく父親を殺す準備をしているだけなのではないか?という自問自答、迫りくる喪失に耐えられなくなったり。彼女たちが逡巡したり、葛藤したりすることや、アンドレがちょっと延期したりするたびに、巻き戻しができない死へのスリル、そして準備してきたことが順調に成就するのか、とでも言えばいいのでしょうか。そういうものが生まれて物語の強度を生んでいるように思えます。

 非常に印象的なのは、冒頭のシーン。電話を受けて慌てて家を出ていこうとするエマニュエルなんですが、ちゃんとコンタクトをつけに戻る。ここでコンタクトをつけて、そしてその一日の終わりにしっかり外すとこまで描写している。絶対に目が曇ってはいけない。現実を受け入れなくてならないなら受け入れるし、しっかり見定めるべき事象なんだぞ、と印象付けられました。やってることは日常の一動作なんですけどね。