抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

そこに希望はあるか「日本沈没2020 劇場編集版 シズマヌキボウ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は湯浅政明監督最新作…ではありますが、ネトフリで公開されたアニメの総集編ということになります。ネトフリに加入していない人にも見てもらう、という意味では悪くない試みだろうとは思います。

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WATCHA2.5点

Filmarks2.4点

(以下ネタバレ有)

1.シンプルに人手が足りていないのでは?

 本作の内容に触れる前にどうしても言及すべきなのはそのクオリティだと思います。手垢のついたジャンルであるディザスタームービー、しかも「日本沈没」を、わざわざアニメーションで映像化するのであれば、そのクオリティがある程度担保されている必要がある、と思います。それだけ小松左京のブランドは大きいのです。

 その点でいえば、残念ながら本作は全くそのクオリティを確保できていないと感じました。まず原画。登場人物の顔が安定感が無いのは、スマホの画面で見ている分には構わないかもしれませんが、スクリーンで見ればその歪さは際立ちます。湯浅作品においては、崩した顔の描写も見られたりしますが、それが「夜明け告げるルーのうた」のような効果的な用いられ方をされている、というよりも単純に間に合っていない、という印象を受けました。

 そしてそうした原画を繋げる動画。日本沈没を描くうえで最も大切な災害描写で動画の不足を強く感じました。地面が割れるのが一瞬だったり、どうも滑らかでなかったり、枚数が少なそうだったり。実写でできないレベルの大災害を起こせるからアニメーションにする意義があると思うのですが、とてもそうは思えず。地震だからと揺らしてばかりの撮影も個人的にはイマイチな印象。

 そして何より編集。もともとネトフリのシリーズとしてリリースされていることから、各話の最後あたりにクリフハンガー的な要素があるのはわかります。が、今回は劇場作品として151分にまとめているのだから、その中に物語を再構築することが必要なはずです。ところが、本作は正直言ってぶつ切りのエピソードの羅列にしか感じず、物事の比重が均等すぎる。それどころか、視点をミクロに設定して家族に焦点を当てているのに、父の死よりも一時期逗留した新興宗教施設の崩落での出来事のほうが涙ぐましく語られている。それを補強するかのようにラストでずーっとモノローグ。しかも、かなりの回数暗転による調整が入っていて、途切れ途切れな印象をますます強めます。これまでのセクションは、リリースまでに間に合わなかったと言い訳ができますが(それでも映画にするならブラッシュアップして欲しいが)、編集は完全に劇場用なのでシンプルにダメだと思います。

2.描かれたニホン

 本作は、今回の為に予習した森谷司郎監督版と違い、視点はミクロを徹底します。そのため、予測される大災害に向けてどう動き、現実にどうなっていくか、というよりも、大災害を受けてどう動くか、というシミュレーションに近い感じがあり、過酷な「サバイバルファミリー」とか、「東京マグニチュード8.0」なんかが比較対象になると思います。

 主人公を日本とフィリピンのハーフに設定したことで、沈没していく日本とは何か?あるいは日本人とは何か?という命題を立ち上げたかったように感じましたが、そこも消化不良な印象。視点のミクロさのせいで、主人公たちが立ち会った悲劇や事件を通してからしか描けないのですが、その割に国籍がどうとか、そういうのは純粋日本人なるパワーワードが飛び出す部分でしか生きていないし、映画としてはそのあとの漂流部分があまりにも長いのでそんなに印象にも残らない。結果として、小さな偶然や出会った人々の犠牲や善意で今の自分たちは出来上がっているという、結論としてもミクロなものになっているので、デカい命題に対処できていないんですよね。結果きっと全体を通して伝えたいだろうメッセージがダイレクトに込められたラップシーンは只管虚無。ただただ説教臭くなっただけでした。

 更には、終盤の在りし日の日本アーカイブも地獄。なんかただただ日本の観光VTRを見せられているようにしか感じないし、そもそも途中からアーカイブだのデータだのが急に出てくるので、その時点でちょっともうどうでもいいんですよね、空想のものは。

 例えば、助かった後のロシアでの生活をもっとしっかり描いて、難民としての日本人をもっと描いておけば、日本の復活も多少は劇的に感じるとは思うし、今日的意義も入ると思うのですが、どうでしょうか。