抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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文化・宗教の壁を料理で乗り越えよう!「エイブのキッチンストーリー」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 今回は東京国際映画祭でもかかっていた作品をオンライン試写会で。ストレンジャー・シングスのノア・シュナップ主演の料理映画です。

映画チラシ『エイブのキッチンストーリー 』5枚セット+おまけ最新映画チラシ3枚

WATCHA4.0点

Filmarks4.1点

(以下ネタバレ有)

 1.fusionがもたらすconfusion

 本作の主人公エイブはニューヨックのブルックリンに住み、母親はイスラエル系、父親はイスラム系のパレスチナ人というちょい、というかかなり複雑な家庭。それぞれの両親なんかも集めての食卓では、結局政治や宗教に絡んだ口論が絶えなくなってしまう。互いの文化圏が自分の側を選ぶように色んな行事を仕掛け、エイブのこともアブラハムやらイブラヒムと、それぞれ異なる名前で呼びかけてくる。12歳の子どもにとって、祖父母が読んでくる名前が異なり、更に自己認識としての名前を異なるっていうのは大変だと思います。

 そんな中でエイブの趣味は料理。自分の誕生日パーティも自分で料理しちゃうぐらい。重曹とベイキングパウダーの違いが分からない母よりも料理は詳しそう(私も重曹とベーキングパウダーの違いは良く分かりません。お菓子とか作らないので…)。

 そんなエイブは夏休みに疑似国連と料理キャンプのどちらがいいか両親から迫られるも、選んだ料理キャンプが想像よりもレベルが低いので脱走、おいしい料理を作っていたチコの下に弟子入りします。初めてエイブの料理を食べたチコがfusion(融合)じゃなくてconfusion(混乱)だ、なんて言っているのは非常に印象に残りました。

 こっからエイブはまずは皿洗い、ゴミ捨て、皮むきと少しずつステップアップしていき、料理人仲間からも認められていく。個人的にはもうちょっとココをじっくり描いても良かったような気もするんですが、まあいいでしょう。

2.一朝一夕では解決しないけれど

 ところがどっこい、まあ行ってるはずの料理キャンプにいないので問題化。結局それが発端なのか、両親は離婚する方向に。そんな家庭のボロボロ具合をなんとか修復するために、エイブは全部自分が料理を手配し、ユダヤ料理やイスラム料理をミックスした本当のfusion料理を提供しようとするのです。ああ健気。そんで美味そう。蜷川さん、美味そうな料理はこうやって撮ってくださいね!

 なのにですよ、孫やら子どもやらが丹精込めて料理を作ってもてなしてくれるっていうのに、この大人たちはまた口論を始めてもうダメダメ。最悪ですね。ただ、こういうときって、子どもが大声出しちゃうタイプの演出が多い印象なんですが、エイブは七面鳥をオーブンに入れたまま家を飛び出してしまう。オトナの口論なんて、子どもは入っていけないものです。そして誰も面倒を見なかった七面鳥は焦げてしまう。この演出はとっても好きでしたね。

 いざ子どもがいなくなって自分たちの行いを反省した大人たちはちゃんとメシを平らげ、仲良くなりました、ちゃんちゃん、と終わり方は割とテンポよくなんかいい感じで終わりました。ここももうちょっと欲しい気もしましたが、エイブ自身がユダヤの成人式やイスラムラマダンを経験しながら、どちらの文化圏か選択するのではなく、イブラヒムでもアブラハムでもなく、ただのエイブとして生きていきたい、そうやってアイデンティティを確立した終わりはとても好みなものでした。

 いまなお燻っている宗教観対立や中東問題の根強さっていうのは、「判決、2つの希望」とかでも描かれていたと思うんですが、直撃世代にはどうこうしろ、というのも難しいとは思います。その一方で、今作のように個人を知りあう機会が出来たなら、どうか全体と個を分けて認識できる世であればいい、その架け橋に料理がなるのは面白いですよね。