抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

メシが美味そうならそれは良作だ「海辺のエトランゼ」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 テネットにヴァイオレットという2時間半クラスの作品を含めた10時間、5本+ドリンク飲み放題のワンデーシネマパスが2500円だったことを考えると、60分で1800円固定のこの作品に若干の割高感があるのですが、気のせいですか。え、ちょっと待ってヴァイオレットが実質500円弱とか、マジでそれでいいのか。そっちがお得すぎるんじゃね

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WATCHA4.0点

Filmarks3.8点

(以下ネタバレ有)

 

1.BLにとどまらない恋愛描写

 本作もまた、フジが設立したBLレーベルであるブルーリンクスの作品であり、BL作品であることは言うまでもありません。

 ただ、本作はより純度の高い恋愛として描き出している為、BLに特異の部分と、さらに本質的で普遍的な部分が見られたと感じます。

 BLに特異な部分としては、やはりその障壁となる部分。メインとなる駿と実央のうち、駿は作品の当初からゲイですが、実央はどちらかというとバイセクシュアルに近いというか、駿だから好きになった、という感じ。だからこそ、駿にとっては実央が異性に接客しているときのからかいだけで嫉妬と後悔が浮かんでしまう。自分が道を狂わせたのではないか、という責任ですね。これは普遍的な恋愛だと少し生まれにくい感情だと思います。

 一方で、かつての駿が回想で描かれる中で、かつてと現在の駿の比較として非常にわかりやすくオーバーラップさせた演出がされ、電信柱を境にここから踏み出せるのかどうか、が溢れる想いのあと一歩を際立たせています。

 また、いわゆる約束された敗北者である幼馴染、負けヒロインの桜子。足元に死体が埋まっている人が私は大好きですが、それはまた別の櫻子さんのお話。彼女の存在が異性愛と同性愛の比較として用いられつつ、好きじゃなくていいから傍にいて欲しいという桜子の願いそれはまた別種の恋愛における本質を抉り出してもいると思います。

 さて、そうは言っても実央と駿を重ねるように描いた部分で大きな違和感があったのが家族周りの描写。桜子来訪も、駿に沖縄から遠い北海道の地への帰還を要請するものであり、それは家族に会うため。物語の序盤に母親を亡くして天涯孤独となっている実央からも、家族が死ぬ前に会ってほしい、という想いが見えます。これ自体は間違っていないし、素晴らしい感情だとは思うんですが、なんていうんでしょう、カミングアウトの問題があるというか。劇中で描かれたような、父が自分の恋愛観を完全否定し、それをフォローするように見えて追撃していた母、という組み合わせにもう一度立ち向かう困難さは想像に絶します。それでももう一度会いに行くのはそれほどしなきゃいけないことなんでしょうかね。少なくとも、自分の幸せだった家族の思い出だけでそこを促してしまう実央には違和感を覚えました。やっぱり何も考えてないのでは?というか、純粋な感情だけで走ってきていて、色んな経験がないのかな?という感じ。

tea-rwb.hatenablog.com

2.よく食べよく眠る

 さて、本作の美術の美しさには目を見張るばかりですが、非常に印象的だったのが食事。実央の大好物カレーにはじまり、おにぎり、唐揚げ、ビール、コーラ、サーターアンダギーと挙げればキリがないほど食事が出てきますが、これがまた美味しそうなんですよ。わざわざ食事作監まで入れる気合の入れよう。

 それと、駿と実央の二人は本当によく寝ているところを抜き出されております。これは並立的に提示される絵理と鈴のカップルではあまり見られないので意図的かと。

 睡眠と食欲がこれほど丁寧に描かれていると、そこに当然際立ってくるのは、「生」の実感と残る3大欲求の性欲ですよね。他の欲求をしっかり満たしている様子を描くことで、性欲に関して性的不能などではなく、むしろ秘めたるものがあるが発散できていない、というように私は捉えました。それゆえ、実央の行為の誘いを断る駿の思いもそれはそれでわかる、すなわち嫌いだから、したくないから断っているのではない、と。