抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

観察映画。その瞬間、その衝撃。「港町」感想

 

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 GW真っただ中ですが、Jリーグ以外特段の予定がないので気楽に過ごしています。

 今回は5/1のファーストデイを利用して見に行った想田和弘監督の観察映画第7弾となる港町の感想になります。前日に見る候補に入れている旨のTweetをしたら、想田監督にご反応いただいたので、チョロい私は当然のように劇場に向かったのでした。1日は暑かったからイメージフォーラムまでの移動で汗だくになりました…。

港町

WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

(以下ネタバレ有り)

 1.観察映画

 想田和弘さんに関しては、著書「日本人は民主主義を捨てたがっているのか」で初めて知り、そこで提唱されていた日本人が政治を消費対象としている、的な言説に関してなるほどその通りだと感じて以降、追うようにしている映画監督さんです。 

日本人は民主主義を捨てたがっているのか? (岩波ブックレット)

日本人は民主主義を捨てたがっているのか? (岩波ブックレット)

 

  その後、自分自身の関心領域にほど近い「選挙」をレンタルで見て、これまた面白いと。ちなみに1年前の「選挙」の感想で失言で与党の緩みが、などと言ってますが多分今村復興大臣のことでしょう。1年前より状況は悪化している気もしますが、まあそれはあくまで個人的な政治への意見なのでこの際スルーで。 

tea-rwb.hatenablog.com

 さて、想田さんの観察映画といわれるドキュメンタリーの撮影手法は字幕やBGMが一切つかないものなので、画面からあらゆる情報をいかに読み取れるか、でこちらの感想が大きく変わっていくことになります。その性質ゆえに、例えばゴジラシリーズの怪獣プロレスを見に行くような気分ではとてもじゃないが向かえない映画です。だから体調を万全に整えて…なんていっていたら前作の牡蠣工場の公開が終わってしまって後悔したものでした。

2.それは見知った…

 今回の舞台となるのは岡山県牛窓。前作「牡蠣工場」の舞台でもあります。Youtubeで調べてみれば意外にも陽気でそこまで田舎ではないのでは?感もしてきますが、映画で見る限りは典型的な漁村に感じました。(↓自転車の籠に犬を乗っけていたおじいちゃんの行っていた海水浴場や衝撃の場面になる病院は出てきましたね。)


 カメラを向けられた先は、波止場、漁にでるワイちゃん、魚市場、鮮魚店高祖、猫、高台の墓、そしてもう1人の主人公といえるおばあちゃん。

 坂がすぐにある漁港、後期高齢者が多く限界集落感の漂う人口構成、正直私はこの光景を知っています。私の父や祖父の生まれ故郷で、我が家の墓もある長崎県平戸島のある集落は殆ど丸写したような場所です。なんだったら、観光資源が無いわけではないところまでそっくり。それだけに、この映画で起きていることはとても他人事とは思えませんでした。

3.その瞬間

 映画はワイちゃんの漁に同行し、競り、鮮魚店での下ごしらえ、そして配達までが描かれます。ワイちゃんは魚の市場価格の低下と逆に必要なものの値上がりで漁業が苦しいことを語り、鮮魚店の女将さんは温暖化の影響で魚の取れる種類が分からなくなったと語ります。そうか、この映画は漁業の抱える問題を扱う流れになっているのだな、と油断しているとその瞬間は突如訪れました。

 冒頭からカメラに対して唯一積極的に語りかけていたクミちゃんが見せたい景色だといって高台の病院脇までカメラを連れていき、唐突に独白を始めました。

 内容は騙されて息子が福祉施設に連れていかれた、1人きりで自殺も考えたという衝撃的なものでした。アト6(TBSラジオ:アフター6ジャンクション)でも想田さんは言っていましたが、撮ろうとしていないものが偶然撮れた瞬間です。とても重々しい告白に対して、想田さんはクミちゃんの求めていた答えを提示するようなことをしたのではなく、彼女の告白に応えるように更に問いかけをしていきました。カウンセリングだと思えばとてつもなく残酷な瞬間だと思います。でも想田さんが答えることではなく、応えることを選択したことであくまでクミちゃんはカメラの中の物語の主人公で居続けました。この一連の応答に「観察映画が何か」の本質が詰まっているのかな、と感じました。

www.tbsradio.jp

 さて、クミちゃんの衝撃の告白は、この映画を観察映画たらしめる以外にも大きな影響を及ぼしていました。クミちゃんの告白は後期高齢者の孤独という、これからの日本に確実に横たわる命題を提示しているのです。そのことに我々が気づいた瞬間、それまでの漁業を描いているだけに思えた前半部を思い返します。耳が遠くなっても漁に出ているワイちゃんは後継者がいません。高祖の女将は配達にあたって、それぞれの家庭のスケジュールをしっかりと把握していました。そして勿論そう、クミちゃんがカメラの前でも積極的に話しかけてきたのは…。ワイちゃんが嫌いだけど、会ったら話さないわけにはいかないといったクミちゃんの言葉も重くのしかかります。

 

 見始める前には想像もできない展開を迎えた本作。途中、野良猫たちへのごはんを撮っている最中に通ったおばあちゃんの背中にDOG HUNTINGと書いてある奇跡なども起きましたが、日本の未来について考えざるをえなくなります。と同時に、カメラを据えて港町を撮っただけ、にも関わらずやはりそこにも物語はあるんだ、ということも強く感じます。

 すぐに公開される次回作は、私の好きなスポーツ、あるいはスタジアムが舞台となるので、是非とも見たい。そして、アメリカを取材しているため、当然会話が英語になるので字幕が必須になり、新たな観察映画の形が見れると思うのでとても楽しみです。