抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

人の業のドキュメンタリー。「ジェイン・ジェイコブズ/ニューヨーク都市計画革命」「ラッカは静かに虐殺されている」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 この1週間でみた2本のドキュメンタリー映画の感想を認めたいと思います。

 どうでもいいですけど、森博嗣的にはドキュメンタリなんですかね。

ジェイン・ジェイコブズ

ジェイン・ジェイコブズ ニューヨーク都市計画革命 [DVD]

WATCHA3.5点

Filmarks3.5点

ラッカは静かに虐殺されている

ラッカは静かに虐殺されている

WATCHA4.0点
Filmarks4.2点

 1.ジェイン・ジェイコブス/ニューヨーク都市計画革命

 そもそも皆さんはジェイン・ジェイコブズという人をご存知だろうか。都市社会学における名著『アメリカ大都市の死と生』の著者であり、メガシティ化するニューヨークに警鐘を鳴らしたことで知られる人物である。

 

 正直この映画を見に行くような都市計画などの関係者や学生しか知らない気もするが、私も多分に漏れずそのクチでした。特に彼女以後のNYを扱ったシャロン・ズーキンの『都市はなぜ魂を失ったかージェイコブズ後のニューヨーク論ー』という本がとても面白かったので、そこからジェイコブズについては関心を持っていました。 

都市はなぜ魂を失ったか ―ジェイコブズ後のニューヨーク論 (KS理工学専門書)

都市はなぜ魂を失ったか ―ジェイコブズ後のニューヨーク論 (KS理工学専門書)

 

  映画では、都市計画を強引に推し進めるロバート・モーゼスとジェイコブズの戦いの様子が記録されていました。モーゼスは移民地域やスラムのような貧困街を都市の悪と断罪し、排除することで都市を快適にする、あるいは自動車道路中心の都市づくり、というものを掲げました。ジェイコブズは、都市を作り上げるのは住民であり、住民を排除しての都市計画に意味はないと主張。モーゼスに勝利し、彼女の思想は近代都市社会学の礎となっていきます。

 ジェイコブズの思想が、都市計画の為政者としての政治・企業を無視しているという批判もうなづけるし、ロバート・モーゼスが全て悪いとは思いません。東京を始めとしてた日本もスクラップアンドビルドで発展してきたことは間違いのない事実です。ですが、廃墟と化した当時の計画都市の様相やニュータウンと呼ばれる街の現在を考えると豊洲などオリンピックに向けて造成される新都心もいずれは…との思いも抱えてしまいます。結局は政治や権力のエゴ的なものではないのか、利益誘導では。そんな思いも浮かんでしまいます。

 正直、ジェイコブズの理論、活動自体を描くこの映画は都市社会学を学んでいるとそこまで新たな知見を提供してくれることはありません。『沈黙の春』でおなじみのレイチェル・カーソンフェミニズムが彼女と同時期の運動で相互に作用しあっていたことぐらいでしょうか。映画としても、住民排除のゾーニングへの対抗と自動車中心主義への対抗と前後半で同じ相手と似た対立軸で話が進んでいくので少し退屈かもしれません。

 それでも、心に残ることばはありました。「理解できる都市は死ぬ」

 人がいつ死ぬかは、「リメンバー・ミー」をはじめとして(見てないけど)よく語られますが、都市がいつ死ぬのかはあまり語られません。それは私たちの生きていく未来をちゃんと考えていないのかもしれません。

2.ラッカは静かに虐殺されている

 

 ※この作品は処刑シーンなどがあるのでご覧になる際は気を付けてください。

 こちらはISに占領され、首都となったシリアのラッカで戦い続けているジャーナリスト集団のドキュメンタリーです。無理やり上の映画とくっつけるならば、まさに都市が死んだ瞬間を映した映画といえるかもしれません。

 一言で言って、凄絶でした。アサド政権打倒の熱狂のままに気づけばISの支配下に置かれ、そこからの反抗。多くの仲間が命を落としチームもトルコ、そしてドイツへと身柄を移しながら報道を続ける。たとえ国外であっても安全が保障されず名指しでISに脅される恐怖は想像できません。国際報道自由賞を受賞している模様から始まりますが、このRSBB(Raqqa is Being Slaughtered Silently)のことを知らなかったことを恥じる気持ちでいっぱいになりました。

 その国際報道自由賞の受賞の様子で、スポークスマンのアジズはカメラマンから幾度となく表情が硬い、もっと笑ってと指摘を受けています。冒頭なので、もっと喜べばいいのに、ぐらいにしか感じませんが終盤再び授賞式のころにはまったく逆の感情が浮かび上がってきます。笑えるわけない、と。そこに至るまでに、父と長兄を処刑された者、暗殺された共同経営者、何人もの屍の上に立っています。逃げてきた先のドイツでは相次ぐ欧州でのテロにAFDなどが移民の排斥を訴えています。笑って讃えている欧米のメディアに何が分かるんだ、と義憤にかられる時、自分もまた同じように戦地のスクープを消費しているのではないかとぞっとするのです。

 世界にISの脅威を伝え、その内実が分かるだけでこの映画を見る価値は十二分にあるといえますが、それ以上に人にとって何が正しいのか、悩ましく感じてしまいます。

 

 落語は人間の業の肯定だと立川談志師匠がおっしゃったと東京ポッド許可局などでタツオさんがおっしゃっておりましたが、本日感想を載せた2作品は人間の業をこれでもかと見せられて、なかなかに滅入るものではありますが、それでもそこに目を背けてはいけない、そう思わせるものでした。

 最後に、RBSS(ラッカは静かに虐殺されている)のサイトを貼っておきます。劇中でもありましたが、今ではGoogleで「raqqa」(=ラッカ)と検索すれば一番初めに出てきます。

الرقة تذبح بصمت