抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

善意「ベイビー・ブローカー」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は是枝裕和監督最新作。前作は『真実』という映画でフランスでの撮影でしたし、本作も韓国のチームと韓国で撮影した韓国映画。海外づいてますが、舞妓さんちのまかないご飯かなんかで国内作品の予定もあった気がしますね。

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WATCHA4.0点

Filmarks4.0点

(以下ネタバレ有)

1.社会格差?からの疑似家族

 実に印象的なファーストカットから入ります。雨です。坂です。そうです、パラサイトです。6年前から製作に入っていた作品っていう事なので、極めて偶然というか、この間に主演のソン・ガンホアカデミー賞作品の主演俳優となり、是枝さんのプレゼンスも大きく向上した訳ですね。それを感じさせるパラサイトっぽい画から始まるので、これは社会格差の話かな??なんて思わせる。そんな雨の日に坂の上にある教会にあるベイビー・ボックス、いわゆる赤ちゃんポストに赤ちゃんを置いて逃げる女性(正確には赤ちゃんポストの前に置いて、ペ・ドゥナ演じる刑事スジンが箱に入れた)。この赤ちゃんを巡る物語が始まっていくのです。

 結局、子を捨てた母、ソヨンは心変わりをして教会を翌日訪ねたが、人身売買に転じていることを知って、ドンスとサンヒョンの交渉旅に同行。ロードムービー化して、誰がどのロールなのかは良く分からないけど、疑似家族化していく、なんだか『万引き家族』のような様相を呈していく。その過程でもっと社会格差的な方向を描くのかな?と冒頭から思っていたんですが、話はもっと私的な方向に移っていく。色んな取引を中止していく過程でどんどん感情移入していって、この子にとっての最善っていうのを考えていく。どうして人身売買に手を出しているのか、どうして子を捨てたのか。そういう理由が彼らの会話を通して分かっていくと、最後の晩は「生まれてきてくれてありがとう」を言い合う、利他のゾーンに入っています。あーあ、どうせぶっ壊すんでしょ?是枝さん、なんて思っていたらやっぱりぶっ壊されましたが、それよりは少し幸せな終わり方だったように思えました。

2.誰が善で誰が悪か。何が罪なのか。

 この映画のキーワードはおそらく「善意」「善人」みたいなこと。本当は赤ちゃんを売り捌いてしまうブローカー商売をしているはずのサンヒョン&ドンスがどんどん善人見えてくるし、子どもを捨てたソヨンが旅に同行して交渉に同席することで、むしろ彼女の母性はどんどん主張されていき、子を捨てた母ではなく、子を愛する母のように感じられる。ここに加わった孤児の男の子の圧倒的な無邪気さも加わって、彼らは人身売買をしているはずなのに、どこか善性の象徴のようにすら見えてくる。彼らは赤ちゃんを売るために輸送しているはずなのに、安全に保護するために守っているように見えてくる。

 一方で、彼らを一方的に見る視線の存在であるスジンとイ刑事のコンビは、基本的にずっと車中だ。スジンの夫との関係も一瞬見えてきて、これが実は隠れたテーマである二人の母、っていうものを描く鍵だったりするんだけども、とにかく大事なのは彼らが車中という安全圏から彼らを見るだけの存在であって、なんだったら盗み聞きすらする。人身売買の現行犯逮捕のために、子を買う夫婦を仕込んだり、なんだかあの手この手で人身売買を成立させようとする彼女たちは、社会正義を執行する立場であるように思えるのに、どこか悪く見えてくる。と同時に、彼女たちは先ほども言及したように一方的に視線を向ける存在であり、それは観客と同じだ。赤ちゃんポストを利用した母たちへの善意の第三者としての意見を投げているスクリーンのこっち側に居心地の悪さを与えてくる。

 最終的には、警察は社会正義を執行する。だが、刑事たちは車内で安穏と見ているだけを止めて、ソヨンに接触、彼らに干渉していくことを選ぶ。この世界においては、ただ見ているだけの観客から遊離して、自分の信じるものの為に動くことが「善意」であって、ただの第三者目線でのニュース映像なんかは「善意」ではないんだろう。