抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

聖痕「ベネデッタ」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はヴァーホーベン御大の新作。性的暴力を伴うシーンがありましたので、映画を鑑賞される方はご注意を。ヴァーホーベン的なエロ描写だから!とかレーティングがあるから!と別の文脈だと思うので一応。 

Benedetta (Original Motion Picture Soundtrack)

WATCHA3.5点

Filmarks3.6点

(以下ネタバレ有)

1.中世の嫌なとこMAX

 さて、本作でどうしたって思い出したのは『最後の決闘裁判』。中世ヨーロッパのいやーなところをもはや老齢となった名匠が撮ったよ、っていう外側のところでもそうですけど、教皇大使がペシアの街にやってきてからが実に醜く、フェミニズム的なメッセージを強く感じる。前半部分でずーっと修道女という女性だけの世界を描いてきていて、神父さん一人だけ男性の異質な空間だったのだが、教皇大使たちが来てからは男たちがベネデッタやバルトロメアたち女性を審問し、見下す。女性同士の関係性に嫌悪を示し、極刑に処すべしとし、「ベネデッタに情欲を感じたか?」とバルトロメアに問う。ああそんなクソシーンあったな、決闘裁判にも。

 序盤は、バルトロメアの登場はセンセーショナルで、禁欲的なはずの修道院という空間に対して波紋を投げかける存在だったはずなんですよ。バルトロメアは家族から性的暴行を受けていたところを保護したかたちになっており、もしかしたら聖女として不適格かのように見え、彼女はいきなり別れ際に口づけをかわしてくる。乱れの象徴といいますか。盟神探湯させちゃうぐらいの疑心が向けられてたんですよ。ところが、中盤にもなるともうベネデッタとバルトロメアの関係性は肯定されるべきものというか、いいじゃん!っていう風に見える。だからあの男たちの醜悪さは、彼らがペストを街に持ち込むことによって町の民たちも反旗を翻していくという点も含めてベネデッタへの怪しさ、疑念を抱かせずに進む。

2.神は作れるのか

 フェミニズムとしての『ベネデッタ』と同じぐらいは多分宗教映画としての『ベネデッタ』も大事なんだと思います。ただ、当然モチーフとなるキリスト教のいろいろをそんなにちゃんと調べていないので、そこはまあ詳しい人が勝手に解説してくれるのを待っておくとして(例えばバルトロメアが羊と共に修道院に逃げてきたとことか意味ありそーとか思ってた)。

 でじゃあ、私が何を思うのかね、というと宗教っていうものの虚構性ですよね。いっつも言ってんな、という気もします。持っている手札が少ないんだろう。

 物語として、ベネデッタは嘘をついていたのか、というのは重要であるようでもあり、些末であるようにも思えます。ただ、少なくとも6歳で修道院に入った彼女自体はおそらくちゃんとキリスト教っていうものを信じている、信じていたはずなんです。本当にキリストが降ってきて会いに来てくれたと思っていたはずだし、ウソであっこまで苦しんだりしてない気がするんです。あと、ペストはこの街を襲わない!とか言っちゃうのはリスキーにも思える。ところが、額の傷が無いのはおかしいと言われてから、あれ?こいつやってんじゃね?疑惑が鑑賞者の方にもちゃんと芽生えるし、最後の聖痕は完全に自作自演であることを示しています。ベネデッタは教皇大使に対しても敵対して聖痕や奇跡を利用するようなかたちになっているし、果たして信仰を捨てたということなのだろうか、と疑問が湧くわけです。

 個人的な回答は、決して信仰を捨てたわけでもなく、彼女が信じていたキリスト教と既存のキリスト教が乖離してしまっただけで、キリスト教徒ではある、なんだと思うんです。一度死んで蘇る、みたいな形で彼女自体が新たなキリストになろうとしているようにも思えますが、あくまで彼女のポジションとしてはキリストの嫁であり、キリストに守られる特別な存在。すべてが終わった後に、個人として愛されることを望んだバルトロメアに対しての態度からも、自分では信じ込んでいそう。結果的には新しい何かを信仰していることになってしまった、自分の神を作ってしまった。

 舞台がイタリアであることも踏まえると、カトリックに対するプロテスタントの出現とか、そういうのも含意されているだろうし、あるいは既存の社会に対するカウンター的な意味合いで広くとれば、前項の男性本位の社会からの離脱、フェミニズム的なメッセージにも思える。

 ただまあ、映画という虚構の中で宗教という虚構と奇跡という虚構、神という虚構とどう接触し、どう証明するかという話なのでね、愛聴するTBSラジオ『アフター6ジャンクション』のパーソナリティのライムスター宇多丸さんの言葉を借りれば、「映画なんて全部嘘」なんでね。まーあんま考えすぎずにヴァーホーベン先生のエログロちゃんと入って『ELLE』より分かりやすく楽しめるやつきたー!でいいんじゃないっすかね。