抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

パク・チャヌク、次に用意した障壁は「別れる決心」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回はパク・チャヌク監督最新作。こう、カンヌとかで情報仕入れてから長いと、邦題の『別れる決心』より英題の『Decision to Leave』の方がなじみ深かったりしますな。

f:id:tea_rwB:20221229213653j:image

WATCHA3.5点

Fimarks3.7点

(以下ネタバレ有)

1.むしろクラシックな手触り

 パク・チャヌク監督作品といえば、前作『お嬢さん』もそうですし、出世作JSA』、『オールド・ボーイ』であるとか、『親切なクムジャさん』とか、かなり直接的でハードな暴力あるいは性描写を伴いながらも、ある二人の人間の間にある障壁とそれを乗り越える愛の力っていうものを題材、という印象です。

 その点で言うと、本作は直接的な表現は一切排除した、と言えるでしょう。ナイフ格闘のシーンでも、ナイフを素手で止めてもそこまで傷を見せないし、山からの転落も開き切った眼球に虫がついている描写こそあれ、傷口パックリとかそういうのもない。後半の刺殺体も殺害シーンは出てきませんでしたね。性描写に関しても同等で、セックスシーンはありましたが可愛いものだし、なんだったら1番エロいのはソレとヘジュンの手をつなぐシーンだったりして、描かないことによるエロさとか、そういうジャンルのそれだったように思えます。

 一方で、監督本来の持ち味である2人の間にある障壁、故に燃える愛、みたいなところ、『JSA』で言えば南北、『渇き』は種族と宗教、『オールド・ボーイ』で言えば親子、『お嬢さん』であれば主従、そして同性ってあたりですか、っていうのは今回は刑事と被害者の妻、いや、刑事と容疑者っていう関係性。で、そういう関係でも超える感情、愛みたいなのがあれば壁を乗り越えていけると『お嬢さん』は高らかに宣言した訳ですが、今回はまた一味違っていて。むしろ、この関係性だから燃えるのであって、それを超える必要なんてない、いろいろ手を尽くして容疑者と刑事という関係でいなくてはならないのだ、という奇妙な恋愛劇なのです。特に、ソレははっきりとその関係であることを望んでヘジュンの引っ越した辺境の街にまでついてきたわけです。ソレにとっては夫殺害の真実を解きおおせたヘジュンが呆れて工作を指示したその段階から燃え盛っている訳ですね。だから証拠になるスマホも捨てれないし、音声も消せない。歪です。歪ですねぇ。ある種、ホームズとモリアーティ的ですらある。ホームズとモリアーティってどっちが攻めで、どっちが受けなのだろう、とか危険なことを思い付きましたがこの疑問はインターネットの海に流すことにします。多分調べない方が平和だ…。

 こういう特殊な関係、そして最後には海岸で穴を掘って満潮になると死ぬシステムで自殺することでヘジュンの人生を支配したソレという構図、全体を貫くクラシックな感覚から、アルフレッド・ヒッチコックの『めまい』を連想することは難しくないでしょう。サスペンスの王様に対するパク・チャヌクなりの応答、のようにも思える作品に仕上がっていました。そういう意味では、『めまい』ショット、と言われるようなものとはまた違うにしろ、引いたりズームしたり、パンしたり、カメラというものの存在を強く意識させるカメラワークやどこかシリアスになりすぎるのを止める音楽、スパッと切り替わる編集など、監督独自の持ち味と呼応するような部分もありました。

 そして、やはり印象に残るのはスマートウォッチなども駆使したこと。ハイテクノロジーなものを映画にどう持ち込むかというのは、日常の変容に伴って少しづつ答えの見えてきたところではありますが、これほど古典的なミステリにそれを持ち込むっていうのは多少ハードルが高いところ。しかしながら、パク・チャヌクはそこの違和感を拭い去ることに成功し、スマホでのメッセージのやり取りがちょっとしたジョークになるようなシーンまで入れても全体からのクラシカルなムードがなくなることはありませんでした。

 あとは、これだけ分かりやすいファムファタル的な動きをしてる方がいる以上、アジアのノワールとしては中国ノワールの躍進っていうのは一つ頭にあるのかもなーと思わされました。っていうか、ディアオ・イーナンですけどね。それしか見てねえし中国ノワール。日本とかそういう方向も含めてアジア映画の目線は感じました。

 さて、そろそろ白状しましょう。クラシカル、とか凄くいいように言ってますけど、アジアの海岸でとるとそうなるんですかね、火サスっぽいです、はっきり言って笑。2時間サスペンスのフォーマットを感じちゃうのは気のせいではないでしょう。最後に海辺、崖、そういうのはそう思っちゃうよね、みんなそうだよね。カンヌは騙せても日本人は騙せないぞ!!