抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

完璧なプラン「ドリームプラン」感想

 どうも、抹茶マラカス(@tea_rwB)です。

 今回は試写会で1月中に拝見していた映画。『ドリームプラン』の感想です。1月に書いている時点では、ウィル・スミスがアカデミー賞の主演男優賞のトップランナーな感じですが、どうなっているでしょうか。まだノミネートも発表されておりません。

King Richard (Original Motion Picture Soundtrack)

WATCHA3.0点

Filmarks3.0点

(以下ネタバレ有)

1.令和に蘇る『巨人の星

 本作はテニス映画!流石にテニスをそこまで見ない私でも知っているビーナス&セリーナ・ウィリアムズ姉妹を育て上げた父リチャードの物語。

 彼の方針はとってもスパルタ。厳しすぎると隣人から通報されちゃいますし、実際やりすぎに見えるし、まあ自身もそう言っています。ここで語りたい本筋とは離れるものの、一応言及しておくと、そうしてしまった理由は黒人差別の文脈。ロドニー・キングの映像を流したりなんかしているし、リチャードは人種差別の文脈になるとかなりヒートアップしているので、そこは間違いない。そういう状況から子どもたちを守るために頑張っている、ってことでしょう。

 で、まあ色々面倒なんですよね、このリチャードの教育方針。顕著なのは、ジュニアの大会に出るようになった後、負けた選手の親の動向を見てもう試合には出さないとか言い出したり、で、実際3年試合に出さないっていう。まじかよ。行き過ぎた若年層におけるスポーツの競技化に警鐘を鳴らすような方向は分かるんですけど、それはねぇ…。はっきりクソだな、って思ったのは勉強だ!と言って『シンデレラ』を見て何を学んだかを問いて、望む答えが出ないともう一回見ろとか言い出す。いや、答えは有限じゃねぇだろ、その問い。そういう意味では、彼の準備しているパーフェクトなプランっていうものの底の浅さが見えるっていうか、はっきり言って毒親に近いと思ったんですよね。それを称賛するような原題であるKing Richardの時点でかなーり納得がいかないし、試写会で見た後に検索したら、そこを負けない信念とか強さ、みたいに捉えている感想が多くて、まじかーってなったので、はい、私が異端なんでしょうね。

 ってことで、まあテニス版『巨人の星』みたいな感じなんじゃないですか。令和に巨人の星が蘇って美談になっているのは、違和感しかありませんが。セリーナとか、出産してからカムバックして結果残してるので、そっちの方をクローズアップして欲しい気はしています。

2.完璧なプラン…それはノープランbyパラサイトのお父さん

 では、完璧なプランだというリチャードのプランを振り返ってみましょう。

 娘たちは天性のテニスの才能があるので、テニスを教えつつ、メディア対応とか多言語教育、エホバの証人を信仰しているので宗教教育、学校のテストで結果悪かったらテニスさせません。でも、更に上のレベルに行くためのコーチは家が貧しいんで無料で!と名コーチに連絡しまくる、押しかける。どんな名コーチだろうと自分の意見が大事なので、授業中でもガンガンコーチと違うアドバイスします。エージェント契約の話が来たけど、気に入らないから無料でやってくれてた名コーチごと切って、別の名コーチに頼む。頼むけど、家族まとめて面倒みさせる、ついでに自分の仕事も寄越せ。そこまで面倒見てもらったけど、信条的に試合にはもう出しません。そういうの黙って契約してたけど別にいいよね。試合に出さないけど、自分がメディアに出まくります。奥さんの献身には気づかないし無視して全部自分の手柄にします。試合に出てないせいで、観客の目であるとか、試合をコントロールする流れの術は身に付きません。センターコートの試合中は彼女の見えないところでテレビで見てます。

 マジでどこに完璧なプランがあるというのだ。小さい頃からウィリアムズ姉妹に洗脳に近い教育を施しているせいで、プロ転向のタイミングでようやくビーナスの意志を問うが、主体性教育なんて欠片もしていないじゃん、っていう。大体、燃え尽きを危惧するのは分かるんだけど、試合しないで上手くなるわけないでしょ。プロスポーツを少しでも通年で見れば分かるわ。真剣勝負が一番育つんだよ。実際、ジュニア大会でもメキメキと成長していたし、世界1位との試合でトイレ休憩を悪く使われた訳ですが、それだって流れをコントロールする立派な戦術(ダーティではあるけど)。そういうのは本当の試合で掴むものですよ。その時にコーチたちの横にいないわけだし。そこで姿を見せて安心させないでどうすんねん。何を周りの人に名前を覚えておけとか言い触らしてるの。

 そのうえで、契約無効になっても仕方ない条件でリック・メイシーを騙しておいて、3年練習しかさせない、ってつまり住居も食事も最高の環境もすべて無償で寄越せ、っていっている訳で。何がプランだこの野郎、ただのフリーライドじゃないか。いやほんとリック・メイシーはいいやつだ。ジョン・バーンサル良かったね。

 で、そこまでプランに信用がおけない上に、リチャード自体が自分の娘が絡まれたり侮辱されたからといって、町のごろつきを殺そうとしていたことも文句になる。そういう状況からの脱出が大事って印象付けたいのかもしれないけど、どんなプランだと父親が殺人犯でもテニス最強になるんでしょう。お聞かせください、リチャードさん。

 結局、このリチャードさんはプランは立てても、反省とか、そういうのが全くない。ただの夢想おじさんなんですよ。PDCAサイクルを回せばそれでいいというつもりは別にありませんが、この状態よかぁ、まし。それでいて、そのプランをしっかり説明できていない構成なので、セリーナは完全に放っておかれた印象になっちゃう。そこのサポートはビーナスだけがコーチしてもらえる段階でお前がすることだぞ。全部奥さんに投げてやがって。せめて、奥さんからセリーナの様子を聞き出したりするシーンがないと。結局、プロ生活で最強だったのはセリーナの方な訳だし。

 随分と文句を垂れてしまいましたが、まあいい映画なんじゃないですか?普通に。信条的に全く合わなかっただけです。結局リチャードは子を自分の構成要素にしか思ってなくて、個として尊重していないように感じ、それは私が自分の父に感じる不満だったから色濃く出たんでしょう。