抹茶飲んでからマラカス鳴らす

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イーストウッドの贖罪?「運び屋」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 「THE GUILTY/ギルティ」と同日に試写会で見たクリント・イーストウッドが「グラン・トリノ」以来の主演・監督兼任作品「運び屋」です。まあ「グラン・トリノ」見たことないんですが。それでも、「ハドソン川の奇跡」や「15時17分、パリ行き」などの近作や主演を兼ねている「ブラッド・ワーク」なんかは見ているので別にずぶの素人ではないと思います。

運び屋(字幕版)

WATCHA4.5点

Filamaks4.4点

(以下ネタバレ有り)

 1.実在したとは思えぬ運び屋

 今回の「運び屋」は87歳で逮捕された麻薬の運び屋がモデルの実話ベースの映画。正直言って、本当にこんなお爺ちゃんが麻薬運んでたのかよ!なんて言いたくなるびっくりする話でした。

 というのも、このお爺ちゃん、当初は荷物を運ぶだけの仕事と聞いているだけだからわかるにしても、麻薬を運んでいるとわかっても車中はノリノリ。とっても陽気な音楽を大音量で流し一緒に歌ってる。誰がどう見たって麻薬を運んでいるようには見えない。絶対にバレてはいけないのに、ガンガン寄り道もする。その理由が「この店は中西部で一番のバーガー屋」だから。人生を謳歌しすぎである。ここまでフリーダムだから彼は中々捕まらなかったのだろう、なんていう説得力抜群。お目付け役や受け渡しの隠れ家の兄ちゃんたちとも完全に打ち解けて携帯電話の使い方も習ったりしてる。

 それと同時に、2回ほど警察とのニアミスがあるものの、そこも巧みな話術で逃げ切っている。相手の警官が単なる老人への親切や、メキシコ系への偏見で声をかけてきているから逃げ切れた、とも言い切れるが、割り切って悪事にコミットしているともいえる。

 凄腕の麻薬密輸運びといえば、国境を越えて運んでいたトム・クルーズ主演の「バリー・シール」もありました。「バリー・シール」では現在時制でこそ落ち込んだトーンでしたが、運んでいるときはやっぱりとてつもなく陽気。偉大な運び屋はそれと悟られぬ陽気さを持っているもんですかね。

tea-rwb.hatenablog.com

2.イーストウッドの自己投影と贖罪

 今回どうしても注目しないといけないのは、「グラン・トリノ」で監督作で主演をすることを最後だと明言しておきながら復帰したこと。監督の実年齢とモデルの年齢が近いこと、インタビュー等で言っていますがモデルの人物の私的な側面は分からないから創作した、という発言からどう考えても今回の運び屋アールにイーストウッドは自己投影しているのは間違いないでしょう。

 そのため、運び屋、そしてそれ以前のデイリリー(百合)の栽培業者として品評会でトップを取り、家庭を顧みなかったアールが運び屋として大金を手にすることでもう一度家族を取り戻していく話がまんまイーストウッドに見える。映画を作って各地で高評価を受け、賞をもらうものの家庭人としては十分とは言えなかったイーストウッドが人生を振り返って反省しているかのような、そんな気分になってきます。

 そんでスタッフロールでびっくりしたんですけど、アールを拒絶し続けるものの、最終的に和解する娘役にキャスティングされているのはイーストウッドの長女!2人で話し合うシーンなんかもあるので、コレ完璧に狙ってるやん!と思います。アールにとって贖罪としての運び屋だった訳ですが、イーストウッドに取っては弟子と言えるブラッドリー・クーパーが自分を捕まえる役で実の娘と親子役。この映画を作る事自体が贖罪だったのかもしれません。

 一方で、アールは劇中で若々しいことこの上なく、パーティを楽しみ、3P×2回と全然現役。しかも投獄後はまた百合を植えていました。この辺からは、イーストウッドがまだまだやるよ!!と宣言している、っていうか、同い年くらいの同業者に俺はこれだけやれるんだぞ、お前らどうなんだよ、と喧嘩売ってるぐらいに感じます笑。

 

 いやまあ色々イーストウッドが重なるぞ、っていう話ばっかりになっちゃいましたけど、仕事一筋の男が麻薬の運び屋に手を出しながらも家族が再生していく物語とそれを追う捜査官側の物語を明るく楽しく見れる面白い作品なので是非ご覧ください。個人的には「アントマン」でふざけ倒しているマイケル・ペーニャが真面目に捜査官しているのと、すっかりアールに絆される中間管理職的立ち位置の人が大好きでした。