抹茶飲んでからマラカス鳴らす

FC東京サポで鷹党のどうでしょう藩士による映画・アニメを中心とした感想ブログ

ファンサービスと1本の映画を完成させることのバランス。「文豪ストレイドッグス DEAD APPLE」感想

 どうも、抹茶マラカス (@tea_rwB)です。

 アカデミー賞も決まって、作品賞をとったシェイプ・オブ・ウォーターMCU最新作で各地で絶賛の嵐のブラックパンサーを後回しにしてまで見に行ったのが今回扱う文豪ストレイドッグスDEAD APPLEです。

 アニメ版の感想は以下のようになっております。

 文豪ストレイドッグスに対する、文豪を冠する必要がないという批判に関しては、漫画を好きになっている時点でただの装置として受け入れているので、悪しからず。

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【早期予約特典、初回生産特典あり】文豪ストレイドッグス DEAD APPLE(デッドアップル)[DVD](早期予約特典:漫画・春河35描き下ろし美麗イラストB2ポスター(専用収納ケース付)&漫画・春河35イラスト使用特製B2ポスター(劇場入場プレゼント小説用イラスト)付)特製三方背BOX、特製デジパック、文庫本型豪華ブックレット封入)

WATCHA3.0点

Filmarks3.0点

(以下ネタバレ有り)

1.ファンサービスしたい!のはわかる

 通常、アニメ作品の映画化は総集編パターンと完全新作パターンに分かれますが、ほとんどの場合、一見さんよりも固定ファンを重視した作品になると思います。だからこそ、ガルパンの劇場版がすごいし、あるいはアニメではないですがHigh&Lowシリーズも凄いのです。

 そういった意味で今回も多分に漏れず、かなりのファン向け作品となっています。太宰を敵側に寝返らせることで、敦・鏡花・芥川をメインに据え、澁澤・ドストエフスキー・太宰の敵陣営と中也をそこそこ描いています。わっかりやすく人気のキャラとボスに絞った形になっているので、国木田さんや与謝野先生などの探偵社員や福沢社長と森さんという両首脳も顔見せ程度。イギリスのアガサ・クリスティや外伝小説の辻村深月に出番が与えられましたが、綾辻先生は…とも思ってしまいます。尾崎紅葉姐さんの出番は無し。鏡花ちゃんと同じ異能なんだから出せばいいのに…と思うのはファンとしての少数派ですね。

 といった具合にまるで一見さん向けには見えません。OPで名前と異能の名前は明かされていますが、異能の中身がわからないから意味ないし、映画に出ないVSフィッツジェラルドの様子を流しても混乱するばかりです。その癖、中也の異能や汚濁については丁寧に説明。ラブクラフト戦で説明してたろ。だったら乱歩さんの凄さとかも説明してあげなよ…

 ファンサービス満載なのはわかりますし、実際周りのお客さんはみんなファンのようでしたが、初見の方への配慮がまるでないのは、映画館で興行する意味がないようにも感じるぐらいにぶった切っていました。

 そして1番危惧するのが、ファンの反応です。なんかさらっと調べた程度では大絶賛。ファン映画といえども1本の映画としてみる土壌が生まれないと、アニメの劇場化作品はただの資金回収箱となり、アニメをランキングに入れないと決めた某映画雑誌の後押しをするだけではないのか…と思ってしまいます。

2.設定は面白いが…

 今回のボス、澁澤龍彦の異能力は自分の異能力を具現化し、敗れた異能を結晶化して手に入れるというものでした。このため、異能力者は自分の分身と異能力抜きで戦いそれに勝利する、つまり自己を超えることが求められます。テーマとしては普遍的ですが、それゆえに面白くしやすいテーマだったと思います。

 ただ、この設定をしっかりやりつくしたか、と言われると微妙。異能特務課はみんな普通に稼働してましたが、いつ勝ったのか。勝ってるなら澁澤の台詞に齟齬がでるし、そもそも辻村さんが勝てるようには見えません…。これは中也も同様。そして澁澤の異能発動中は電話等もうまく使えないのに、中也とは楽勝。異能特務課が横浜の外にあり、且つ中也は森さんの判断で横浜の外に待機していたということなのか。それならそれで、勝手知ったる横浜でもないのに侵入されてる異能特務課はそれでいいのか。

 ただ、それよりも疑問なのは敦が異能を再び獲得するまでの過程です。自分の異能力に打ち勝っても、自分と向き合えなければ異能が戻ってこない。この点はいいと思います。問題はどう自分と向き合うのか。敦は孤児院時代にその能力を欲した澁澤の実験対象となり、澁澤を殺していたという事実を忘れていました。それを思い出し、異能を含めた自分を受け入れて復活!というわけですがこのプロセスが全て独白に近い。力を取り戻すために仲間(=鏡花ちゃんや太宰さん)やライバル(=芥川)、あるいは師(=彼の場合は孤児院の院長か)の示唆や協力、想いの強さの伝染などがあってカタルシスが生まれると思うのですが、それが皆無。うーん。

 そして、彼が自分を受け入れていると先に進んだ時に困るため、中盤まで敦君はただの腰抜け困ったちゃんに成り果てます。自分の両親を殺した異能力と既に向き合った鏡花ちゃんと比べればもう全然ダメ。敦が孤児院時代と向き合う話や鏡花ちゃんが紅葉姐さんの計らいで真実を知る話は漫画でもうやっているのに、その扱いに差があるのは非常に都合のいい取捨選択と言わざるを得ません。

3.特典とどっちが本編だオイ!

 本編に関しての言及はこれぐらいにして、どうしても言っておきたいのが特典小説「文豪ストレイドッグスBEASTー白の芥川、黒の敦ー」についてです。まず特典小説で200ページってどういうことだオイ。ハガレンの0巻30ページだけで喜んでた人間には爆弾級の驚きです。

 単純に言えば、探偵社に芥川が入社し、ポートマフィアに敦がいるという設定。いわば定番のifストーリー。それに合わせて、ポートマフィアは太宰が首領となり、探偵社には織田作が、鏡花ちゃんもポートマフィアにいます。

  これだけだとただのファンの大好きな妄想垂れ流し特典なのですが、この小説の凄いところは、その設定の必然性にあります。当然、主役2人の性格は変わることがないのですが、それぞれの環境における成長の差や、それ故の必然、更には本編で扱っている敦の孤児院時代の話も含めてパッケージして、最後には連載で進行中の「本」の話でまとめ、この特典小説自体も文ストワールドにしっかり内包されるという出来。映画より良くできた内容でした。凄すぎ。あまりに凄いのに2週目の入場特典も違う小説なのでそれ目当てでもう1回劇場に行ってしまおうか、という勢いです。

 

 文句多めではありますが、ファンムービーとして頭空っぽにしてみる分には楽しいのではないでしょうか。そして何より特典が魅力的。文ストが好きであればあるほど(黒の時代や外伝小説などに手を出していればいるほど)、この映画の好きが見つかると思います。実際問題、私は鏡花ちゃんが可愛いので、それで大体は許しました笑。